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02 幕の内デスマッチ!!


PART・1

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(月刊コミコミ 1984年7月号)
"PART 1"

Bentaro Ekino, commonly called "Eki-Ben" is weak in actual girls and he is an enthusiast who builds figurines of lovely girls by himself.
"But you have to change your such personality, or you will be awkward. You will not able to be a straight member of society, much less to be in love......"
His senior is anxious(?) about his future and takes him to a restaurant which is "just the right spot for the people like you".

 現実の女の子はどーもにが手、という駅野弁太郎、略して駅弁君は美少女フィギュアを自作するほどのマニアである。「しかしお前そーゆー性格なおさんとまずいぜ 恋人はおろかまともな社会人としても……」と彼の将来を案じた(?)先輩に連れられ、「お前みたいなのにピッタリの店」へ行くのだが。

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*ポリパテなどで作った原型をシリコンゴムで型取りし、キャストを流し込んで複製を作る「ガレージキット」は、簡易インジェクションキット(いわゆる普通のプラモデル)では製造に適さないもの、とりわけ人形などの領域でマニアたちにより1980年代前半に普及した。しかしここでとりあげられ描かれているのは模型の世界の事ではなく、フィギュア(人形)をはじめとする”架空の異性に熱中するようになった若い男性(たち)”の姿である。
 むろんそうしたピグマリオニズムは人間の本質として古代から存在した。だが、日本の大衆文化独特の「可愛い」至上主義と結びついて発展し現在にまで至っていると思える点は興味深い。そしてそうした事情を基礎にすえ作品に結実させたこのシリーズは、時代と、若い日本人男性の特徴とをうまくとらえたコメディとして特筆に価するのではあるまいか。
 掲載誌がハイティーンの読者層を対象にしていたためだろう、女体とセックスへの感傷的な夢が描かれ、時に純真な一面をみせる主人公は、子供向けと大人向けの両極端が多い(?)吾妻マンガの中でやや特異な存在になるのではないかと思われる。起承転結は明解で、かつ笑えるあたり、読者が男性というのであればほぼ万人向けかも。



PART.2

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(月刊コミコミ 1984年8月号)
"PART.2"

Eki-Ben plays a paper(?) doll, as ever.
"You aren't recover from your sickness still, are you?"
His senior is amazed but he teachs Eki-Ben the present situation about coterie magazines of paper handicraft.
Eki-Ben comes to understand that there are many enthusiasts who surpass him, in this world.

 今日も今日とて、紙製(?)の切り抜き美少女人形で遊んでいる駅弁君。「お前まだ病気なおってないみたいだな」とあきれつつも、先輩はペーパークラフト同人誌の現状について教え諭す。この世界、上には上がいて……。

Paper_night

*1コマだけ背景にちょっと描かれている「ペーパーナイト」という本は、昭和56(1981)年に東京三世社から「少年/少女SFマンガ競作大全集 PART10 3月増刊号」として発売されたもので、挿絵を吾妻ひでおが担当している(企画制作はSTUDIO IWAO)。大きさは約210×149mm、96ページ、当時の定価は690円だった。題名からうかがえるように成人向け紙工作をいろいろ収録した図書で、コミックではない(画像はその表紙)。



PART.3

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(月刊コミコミ 1984年9月号)
"PART.3"

Eki-Ben attempts to build a lovely girl figurine by refer to a plan, but he can't succeed.
His senior comes and says,"Oh, my! Why are you doing in such an old-fashioned way?".
He takes out an epoch-making new product, and shows it to him.
Its power is marvelous, but......

 3面図をもとに美少女フィギュアを自作する駅弁君だがどうもうまくいかない。そこへ現れた先輩は「なんだ古い作り方して」と一言、画期的な新製品を取り出して見せる。その威力は絶大であったのだが。

*この回ではちょっとしたSF風味になっている。



PART.4

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(月刊コミコミ 1984年10月号)
"PART.4"

(Without any explanation,) In the future a long far......
There are Eki-Ben and his senior who look alike as them who live in 20th century.
They goes to a store of cloning technology.
All kinds of human clone are sold at the store......

 舞台は(何の説明も無しに)はるか未来世界へ飛ぶ。そこにも20世紀と全く同じありさまの駅弁君と先輩がいて、「クローンの店」へ行くのだった。そこではさまざまな人間の複製を売っていて……。



*トビラは手塚治虫『ロック冒険記』(1952~1954年)のパロディらしい。先輩の台詞に「どうせ俺ァSFとは無縁な人間さァ 無常エログロさァ 今だにロ●コンだのと言われんのさァ」という嘆きが吐露(とろ)されている。



PART.5

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(月刊コミコミ 1984年11月号)
"PART.5"

Eki-Ben's parents bought sheets that are printed an actual size nude on them !
It is a pair of the front and the behind, so that you will be able to make a doll from it.
Eki-Ben becomes aware of this point, but his senior had been going ahead with this actual size doll.
They have just thought of a good idea......

 両親が購入した(!)、等身大ヌードシーツ。表と裏の2枚組みなので人形にも加工できると気づいた駅弁君であるが、先輩はとうにその先をいっていた。二人はふと考えが浮かんで……。

*こうしたシーツは今でも現実に売られているようだが、そこからとんでもないところへ話が発展してしまうのが笑える。




吾妻ひでおスペシャル


 

(コミコミ 1985年2月10日増刊号)

 『幕の内デスマッチ!!』はPART5までが1度まとめられ、総集編が増刊号で発売されている(画像はその表紙と裏表紙)。当時の定価は330円、版型はB5の雑誌サイズ。



 表紙を開くと、カセットレーベルなどの綴じ込み付録がある。この当時に、個人が音楽データなどを編集ないし保存する場合、カセットテープが一般的かつ殆ど唯一の記録媒体だったのだ。
 シリーズの他に『コピースクランブル』も同時収録されていた。「吾妻ひでお全作品リスト」などの記事も数ページある。



 ほぼB4サイズの折込ピンナップ。



 その裏面は、横長の構図。どちらも裸婦なのが青年誌らしい?



 これはB5サイズだが、高橋留美子のキャラクターのパロディだろうか?



 オリジナルであろう人魚はともかく、手塚治虫『ロック冒険記』のパロディ(画像右側)は、よほどの漫画マニアでない限り分からなかったのではあるまいか。



 『番外篇』は、この時に描き下ろされ、2色刷りで収録された。オリジナルのバンダナが製造され、読者プレゼントの賞品になったようだ(画像右側)。そのサイズは50cm×50cmとある。



PART.6

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(月刊コミコミ 1984年12月号)
"PART.6"

Unlike his usual state, Eki-Ben plays a jigsaw puzzle that has nothing to do with lovely girls.
His senior is well acquainted with this hobby, too.
And he takes Eki-Ben to a training hall for freaks of jigsaw puzzle.
But a gohst story is widespread at there......

 珍しく(?)美少女とは無関係に、ジグソーパズルで遊んでいる駅弁君。先輩はこの遊びでも先をいっており、つわもの達が集まっている「道場」へと案内してくれる。しかしそこでは最近、ある怪談が広まっていた……。

*ジグソーパズル自体は昔から存在する玩具で、「はめ絵」と呼ばれていた時期もあるようだ。それが部品数を増やし高度な遊びへと進化して再評価されだしたのはやはり1980年代初頭であったかと思われる。「道場」なるものはおそらくフィクションであり存在した事は無いだろうと考えられるが、パズルは現在なおいろいろなものが発売され続けている。



PART.7

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(月刊コミコミ 1985年1月号)
"PART.7"

The subject returns to a starting point that is a figurine of a cutie.
Eki-Ben makes no progress in his problem, so that his senior is amazed and says,
"Hey buddy, an actual woman is......"
But Eki-Ben turns a deaf ear to him and answers back,
"Forget it please, because I'd prefer non-actual to actual!"
His senior shows a masterpiece maded by a figurine modeler who is his acquaintance, and introduces him to Eki-Ben.

 話はふたたび最初のところ、すなわち美少女フィギュアへと戻る。相変わらずなのにあきれて先輩いわく「お前ね本物の女ってのはね……」、しかし駅弁君は「いいんですよ僕は本物じゃないのが好きなんだから」と負けずにやり返す。先輩は知人であるフィギュアモデラーの作品を示し、紹介してくれるのだが。

*この頃、吾妻マンガのキャラクターをガレージキット化した製品が実在したそうである(実物未確認)。「美人のヒロインにケリ入れられるのが無上のよろこびというタイプの人」などという台詞には、性の嗜好についての考察が垣間見える。



PART.8

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(月刊コミコミ 1985年2月号)
"PART.8"

Eki-Ben gets absorbed in figurines of cutie as ever.
He works on making "diorama" this time, his senior is at a loss for words.
They find a inserts about a store which treats dioramas, and go to there on trial.

 今日も今日とて相変わらず美少女フィギュアに熱中する駅弁君、今度は「ジオラマ」に挑戦しているが、先輩もいよいよ言うべき言葉を失う。折込チラシに「ジオラマ」を扱う店の広告があるのを見、二人そろって出かけてみるのだが……。

*ジオラマとは日本文化で言えば箱庭のようなもので、人形の他に背景となる小道具・大道具をも配し、「場面」を構成して展示するものをさす。



PART.9

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(月刊コミコミ 1985年3月号)
"PART.9"

Eki-Ben and his people went sking, but they lose their way in a snowstorm.
When they are roaming around snow-covered mountain, they fall into underground deeply, and find a huge palace made of ice at there.
By whom and what for was constructed such building ?
They come in there, and...

 スキーに出かけた駅弁君たちだが吹雪の中で遭難してしまった。さまよううちに一行は地中深く穴に落ち、そこで巨大な氷の宮殿を発見する。一体誰がこんなものをここに? そして彼らが中へ入ってみると……。

*氷の彫刻というのは別に「おたく」と関係は無いだろうが、真冬ならではの美の世界ではある。彫刻というものが「造形」ではなく、最初から材料の中にあるものを「取り出す」芸術であるという考え方は本当にあるらしい。
 「ニュースの時間です」という台詞は、シオドア・スタージョン(Theodore Sturgeon)の同名作品(And Now the News...)の引用パロディか。



PART.10

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(月刊コミコミ 1985年4月号)
"PART.10"

Eki-Ben begins to cultivate a cactus as a hobby.
He says, "I had heard that if you eat mashed cactus with rice, a beautiful woman appears in your dream every night, and she whips you with a spined whip as BDSM".
"What kind of souce of information do ya have ?"
His senior is amazed, and he makes Eki-Ben to meet an expert of cactus cultivating.

 「サボテンすりつぶしごはんにかけて食べると 夜な夜な美女が夢枕に立ってトゲ付ムチでしばいてくれると聞いた」から、サボテン趣味を始めた駅弁君。「お前 どーゆー情報源持っとるんだ?」とあきれつつも、先輩は栽培のベテランがいる所へ連れて行ってくれるのだが。

*サボテンも別に「おたく」の趣味ではないだろうに、それがどうしたことか、とんでもない方向へ物語が進んでしまいSF(?)になっているのが笑える。



PART.11

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(月刊コミコミ 1985年5月号)
"PART.11"

What a happening ! Eki-Ben walks on a road with a girl !
His senior is amazed for witnesses this by chance and says,
"Ya did it at last !"
But Eki-Ben answers,
"This chick is not a mankind."
In fact, the girl was the spirit of a doll which Eki-Ben had mended.
So that Eki-Ben is perplexed, his senior visits his friend who is an enthusiast of spirits with them.

 なんということか! 駅弁君が女の子と二人で道を歩いている! これに出くわして先輩は驚き、「お前もついにやったな!」と言うのだが、「こいつ人間じゃないんです」という返事。直してやった人形の精霊が出てきたのだった。喜ぶよりも困っている駅弁君のため、先輩は彼らと共に、友人である精霊マニアをたずねる……。

*雑誌連載としてはこれが最終回になるので、そのせいか主人公が女の子をつれて登場したりしているのかも知れない。が、一筋縄のハッピーエンドにはおさまらないのが吾妻マンガなのであった。



幕の内デスマッチ!! 番外編

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(吾妻ひでおスペシャル 1985年)
"an extra"

Eki-Ben is hungry so that he begs his mother for a meal.
She has been in bed with a cold, then she makes her alter ego by a ectoplasm, and asks it to act for her.
Eki-Ben is surprised, but his father can does easily same thing, too.
He says, "I have no excuse to our ancestors for that you don't know the art which is handed down from them".
He orders Eki-Ben to acquire, a training is began.

 駅弁君が腹をすかせて母親に食事をせがむ。すると風邪で寝込んでいた彼女は「エクトプラズム」で自分の分身を作り出し、代役を頼む。駅弁君がびっくりすると、父も同じ事をあっさりやってのける。「一人息子であるお前が伝統の技を知らぬでは御先祖様にもうしわけない」と言う父に命ぜられ、駅弁君の修行が始まった。

「きまぐれ悟空」の主人公がゲストでちょこっと出演している。



コピースクランブル

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(コミック読本SF大特集 1984年冬の号)
"copy-scramble"

Ichiro fells asleep unintentionally while he had studied.
But he wakes up when a TV which he had left turned on suddenly telecasts a sales program at 3 AM.
It says that you can get commodities in an instant when you push a "copy button" of your TV set.
Ichiro had doubts, but it was true !
Moreover, an astounding article emerges for sale...

 こたつで勉強していた一郎はつい眠ってしまう。が、つけっ放しにしていたテレビから、夜中の3時に突然、通販番組が始まって目がさめる。テレビのコピーボタンを押せば、視聴者の手元へ瞬時に商品が転送されるというのだ。まさかと思って試したら、これが本当だった! しかも番組が進むうち、ついにとんでもないものが売りに出されて……。

*テレビ画面のハードコピーをプリントアウトできるテレビというのは、本当に発売された事がある(ただ、普及するには至らなかった)。そうした世相をいち早く反映させたSFコメディである。当時まだテレビは24時間連続放送をしておらず、深夜は何も番組が流されていなかったので、このような幻想も不思議な説得力を今以上に持っていただろう。部屋に見える「ナハハ」クッションは、80年代初頭にゼネラル・プロダクツが本当に発売していた。主人公の名前は「一浪」のもじりか。






*『幕の内デスマッチ!!』の単行本は1997年12月18日(第1刷)に株式会社マガジンハウスから復刻再版されており、これにはPART.1~11と番外編が収録されている。カバーのイラストレーションはこの時に描き下ろされたものと思われるが、その構図はご覧の通り。主人公の駅弁君は自分が人形になってしまい(?)、現実(の日常生活)からはかけ離れたような装束の美女の手の上で踊らされているかのような有様に描かれている。なんとも意味深長だが、一目で風刺を訴えてくるこうした味わいは、作者が年齢を重ねた結果に醸された深みと言うべきか?




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