さらばふたりと5人の巻
(少年チャンピオン 1976年9月6日号)
"Saraba Futari to Gonin (meaning : Farewell, "Two and Five")"
Osamu has a good sleep at his room, but wakes up when Tetsugakuteki-senpai tramples him flat.
"This time is the last inning of this manga", taught Senpai.
"I can't bear the end, I have had opportunity at no time !"
Osamu clamors and notices,
"Oh yes, I've left over to Yukiko, make that !"
He dashes to her ...
センベイ布団で寝こけている、おさむ。しかし哲学的先輩に踏んづけられて目がさめた。「今回でこのマンガも終わりだ」と先輩から教えられ、「一ぺんもいいめみないで おしまいなんてやだー」と騒ぎ、「そーだユキ子さんとナニもやり残してた!」と気付く、おさむ。ユキ子さんのもとへと走り出して……。
*これが最終回。ルネ・マグリット(Rene Magritte)のシュールレアリズム絵画『ピレネーの城』(Le Chateau des Pyrenees)のパロディがあったりする。最後、おさむに全てを許してくれるユキ子の行動が切ない。ポルノ虫と馬が1コマ出演。「これっきりこれっきり」というのは山口百恵の歌『横須賀ストーリー』の一節。
(単行本『ふたりと5人』第12巻は、ここで終わっている。)
さて、『ふたりと5人』は連載当時の1970年代、すでに「チャンピオンコミックス」で単行本化されていたわけだが、およそ20年後、「ミッシィコミックスDX SUPER(発行:宙出版、発売:主婦と生活社)でも再販されている。
こちらは版型がA5で、チャンピオンコミックスよりもひとまわり大きい。また、全6巻なのでほぼ倍の厚さ。
各巻の最後には「描き下ろしリレー絵ッセイ」というのが見開き2ページで収録されており、著名なマンガ家と作者とが手紙のやり取りをするみたいな感じのあとがきになっている。
また、特筆すべきは「チャンピオンコミックス」に入っていなかった回のうち、6話が収録されている事だろう。
第1巻(上の画像はそのカバー、1995年10月25日初版)には和田慎二によるエッセイが載っているのだが、「できれば、旧版未収録作品も入りますように!」という発言があって、これが功を奏したのかどうか、果たしてそのとおり実現したようだ。ありがたや!
また、吾妻ひでおはここで自作『二日酔いダンディー』について、「作者19~20歳頃の作品なので キザでなまいき 一生懸命大人ぶってます 40歳ぐらいと思われてた」と語っている。「私は泥酔しないと自分の漫画が読めない」などとも発言しているのだが、これはアル中の症状を自覚したのが1997年暮れになってからで(『失踪日記』p.147、『アル中時代1』)、この当時はまだ飲酒していたらしい事がうかがえる。
第2巻(上の画像)のカバーには以下のような一言がある。「私はプロレスファンだが 生で試合を観戦したことはない。最近はTVも見なくなった。雑誌を読んで、頭の中で試合を想像し、満足して寝てしまう。退廃しているのである。」
巻末のエッセイでは竹本泉が登場。吾妻ひでおはその返事で『荒野の純喫茶』について語っているのだが、それによると「予告では「幸せを売る男」だったけど 描けなくて かえてしまった」とのこと。こうした裏話も貴重だ。
収録されている話の中には、加筆修正されているものもある。『中古ブロでのぞこう!』の回がそれだ。「チャンピオンコミックス」では雑誌連載時のままだったコマ(下の画像、左側ページの上段)が、
この版では新たに描き直されているのが分かる。
そしてこの第2巻から、旧版未収録であった作品が入り始めている。
プール開きにご招待
(少年チャンピオン1976年8月9日号)
菊地家の5人が水着姿でやって来た。おさむがプールを作ったというので招待したらしいのだ。ところが裏庭に完成したそれは見れば模型のように小さく、水溜り程度のシロモノ。怒って帰ろうとする5人だが、哲学的先輩は驚くべき発明品を作動させて……。
*SFギャグなのが吾妻ひでおらしい。だのに当初、これが収録されていなかったのだから残念な話ではある。劇中に「グリズリー」という台詞があるが、これは同じ題名のアメリカ映画を指しているらしい。最後のコマで戦闘機がいやに細密に描かれているのだが、これはたぶん、当時アシスタントだった沖由佳雄さんが描き込んだのだろうと思う!
第3巻のカバーには以下のような、作者の文言がある。
「「ふたりと5人」の頃は、月産130ページくらい描いてた(描かされてた)。当然、頭ボロボロ、絵はとてもマニアック(そうか?) 毎日デンジャラスなファンレターが届く。そいでも、人気なくなればあっさり さよならだ。怖い世界だっせ、お客さん。」
巻末エッセイには萩尾望都が登場。『愛のコスモ・アミタイツ。ゾーン』を合作した時の事などが語られている。吾妻ひでおは、萩尾望都の酒豪ぶりと仕事の速さに驚いた思い出などをつづっているが、「おれの失踪って有名?」などという一言も。
そして第3巻でも、未収録だった回が1本入っている。
地底王国探検
(少年チャンピオン1976年5月3日号)
菊地家の5人が、春休みをどう過ごすか相談中。その時、哲学的先輩が探検に出かけようとしているのを知る。「ゴミを捨てる穴掘ってたら ぽっかり洞くつ現れて……」それを聞いた5人とおさむは、探検についていく決意を固めたけれど。
*ヴェルヌの古典SF『地底旅行』みたいなお話。ところが結末はなんと……。SF小説が元ネタではないパロディで、誰でもニヤリ! と笑ってしまいそうなのだが、旧版単行本を編集した人はこの回をマニア的、と判断したのだろうか?
第4巻のエッセイでは坂田靖子が登場。で、その返事にと描かれたマンガでは、やっぱり吾妻ひでおが酒をかっくらっている……。
で、今回取り上げられた未収録作品はというと、SF色は無くて、ごく普通の(?)少年むけエッチギャグなのだが……。これまた、なにゆえ未収録だったのやら?
春はスポーツ
(少年チャンピオン 1976年4月5日号)
「この ありあまるエネルギーを いかんせん」と、おさむは自ら望んでスポーツに取り組む。ところがどの種目でも、運動神経ゼロなのが明らかになるばかり。さすらったあげくに、女子バレー部の練習を見かける。彼は補欠で入部させてもらうのに成功したが。
第5巻のカバーでは、以下のような文言がある。
「以前はカブラペンという硬いペンを使っていたのですが、筆圧が強いせいもあって、しょっ中手首を痛めていました。その後、Gペンに替え、かなり楽になりました。今は、手首が痛むも何も、一日2コマも描くと疲れて寝てしまうので、ペンダコすら消えてしまった。ペンダコなんかあるうちは、まだまだだな、ふふふふ。」
巻末エッセイには中山星香が登場、「あじま先生と私は きっと前世で兄弟だったのよっ」と発言。これに対して吾妻ひでおいわく、「前世では兄妹……ありえるな オレも猫好きだし」。そして描かれるその空想は……。
この第5巻に旧版で未収録だった回は入っていないのだが、「寒中水泳は楽し!?」(少年チャンピオン 1976年2月9日号)が載っているなど、「チャンピオンコミックス」とは収録順序が少し異なっているようだ。
で、最後の、第6巻。
巻末エッセイには高橋留美子が登場。「私は不条理さもさることながら 吾妻先生のかわいい女の子たちが大っっっ好き」として、ポロン、あそこ、そしてなぜか、のた魚が描かれている。これに「うーむ あそこが かわいい……」と唸った吾妻ひでおは……。
そして豪華にも、旧版で未収録だった回の3本が、大サービスとばかりに載っている。
花咲かおさむ
(少年チャンピオン 1976年4月26日号)
菊地家の5人組は、早咲きの桜を見ようと出かける。おさむも同行するのだったが、行って見ると、悲しいかな木は全て枯れていた。がっかりして5人は帰ってしまう。が、1人残っていて、おさむは枯れ木の桜が突如、満開になるのを目撃する。これは一体……?
*これもSFギャグ。一筋縄ではいかないヘンな展開、ヘンなオチになるのがいかにも吾妻流と言うべきか?!
透視名人出現!?
(少年チャンピオン 1976年6月28日号)
大金の入った財布を拾い、無我夢中でネコババをきめこむ、おさむと馬。大喜びで豪華な食事をしようとしたら、天罰てきめん(?)、菊地家の5人と哲学的先輩に発見され、全部食われてしまった。残っているカネで食事をし直そうとするのだが、再び発見されスッカラカンになってしまう。おさむは、いつもいい所で邪魔されるのを不思議に感じ……。
*超能力テーマ、とするならばこれもSFギャグと言えそうに思う。1976年9月6日号で『ふたりと5人』は連載終了しているけれど、それが近づいた終盤ではSF色が濃くなっていたのだろうか。「やめられない とまらない」という先輩の台詞はどうも、当時TVで流れていたスナック菓子のCMからきたものらしい。
成功はなわとびから
(少年チャンピオン 1976年6月14日号)
なわとびで世界一の記録を打ち立てた人の写真が新聞に載った。これを見て、おさむも挑戦してみようと考え、ユキ子や先輩も参加。おさむは相変わらずでまるっきりだが、意外にも先輩は……。
*何をやっても駄目なおさむ、殆ど何でも天才的にこなす先輩の対照的なコンビは、ユキ子の若いお色気と共にこのシリーズを構成する要素だったのだろうと思う。果たして当時の少年読者たちはここから学び、一所懸命に勉強しようと決意したろうか??? とにかく『ふたりと5人』は1970年代、少年達に広く知られ読まれたマンガだったのだ。