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20 ぶつぶつ冒険記/ぱるぷちゃんの大冒険
Hideo Azuma has written several "space opera"s. I introduce 2 series of them, "Butsu-butsu Bohkenki (meaning : Butsu-butsu adventures)" and "Pulp-chan no dai-bohken (meaning : The great adventure of Pulp)", at this page. These series may be "consideration and satire about space opera" as well as "stories", in my opinion.


はじめに(1)

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 1月10日、ハヤカワコミック文庫『ネオ・アズマニア3』が発売された(画像はその表紙)。正味223ページ、税込み定価651円。収録内容は以下の通り。
ぐろぐろ動物ランド
○宇宙の英雄マッド・ファンタスチック
○ぱるぷちゃん
シャン・キャット
○ドクター・アジマフ
○あとがき(4ページ)

Na3ato

 あとがきでは、各キャラクターのみならず「フキナガシ(シュール・フィッシュ)」に「タバコおばけ」、「ブキミ」らも久々にちょこっと描かれており楽しい。イトミミズに関する謎(?)が解き明かされるくだりでは吾妻夫人も初々しく登場。創作における独創性と、エンタテインメントとしての普遍性をいかに両立させるかという、プロならではの苦悩について披瀝(ひれき)されている。

Azumania01

 この機会に、吾妻作品のなかで「スペースオペラ」に分類されるであろうシリーズについて、紹介させて戴こうと思う。僕が所有している単行本では『ぶつぶつ冒険記』(1982)と『ぱるぷちゃんの大冒険』(1985)の2冊がそれに該当しそうだ。なお前者はハヤカワコミック文庫『アズマニア1』(画像)に収録されている。だから、どちらも入手に困難は無く読めるだろう。
 「スペースオペラ」とは宇宙を舞台とした冒険活劇のことで、時に蔑(さげす)みを含んで用いられる呼称であるらしい。「アメリカ西部劇を宇宙でやっているだけのような内容だから、所詮は陳腐な読み捨て娯楽の域を出ないであろう」ということだとか。とはいえ、SFについてまるで分かっていない僕のような者にとっては非常に読みやすいジャンルでもある。地上で起こりうるような事件が扱われているということは、それだけ物語の世界に同調し易い。逆に荒唐無稽きわまりないような話でも、遠い宇宙の彼方での出来事となると、地上でそれをやられるよりずっと抵抗も少なく受け入れる事ができる。やたらとメカばかりが出てくるとしても、それが現実の科学技術の延長上にあるものなだけに、これまた読んでいて納得し易いのだ。
 かくて、気分転換のための代償体験としては、手に汗握る命懸けの冒険、かっこいいメカニック、観光旅行(?)の要素、そしてあとは美女が登場してくれたらもう充分満足、という事になる。
 で……真摯(しんし)にSFを探究している人たちは、僕のような読者によるあまりにも次元の低い期待と要求に失望し、時に義憤をおぼえることになってしまうようだ。いわゆる「スペースオペラ」(と、主にSF小説ではない領域で自称されている作品群)には、作家の想像力によって未知の世界を描出して見せ疑似体験させるといった創造性はおよそ無い、どうかそのようなものを「SF」とは呼んでくれるな、と。
 そうした嘆きは僕にも正論に感ぜられ、申し訳なく思ってはいるのだが……(冗談や揶揄(やゆ)で言うのではなく、本当に)。

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 俗受けする「SF」のこうした問題点については、他でもない、吾妻ひでお自身がこれらの作品、『ぶつぶつ冒険記』や『ぱるぷちゃんの大冒険』において何度も取り上げているようだ(これは今後、個々のお話を紹介するつどに少しずつ書いてゆけると思う)。つまりこれらの作品は「吾妻流スペースオペラ」というよりも、「スペースオペラに関する吾妻流の考察と風刺」になっているのかも知れない。

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 SF文化にとっておそらく好ましくない読者であろう僕のような者がこうした作品のあらすじ紹介作文を書くのもなんですが、どうか無知や勘違いはご海容のうえお読み戴きたくお願い申し上げる次第です。



はじめに(2)

Bb01

(注1:この書籍、『ぶつぶつ冒険記』(東京三世社 マイコミックス 1982年8月10日発行)では、『ぶつぶつ冒険記』シリーズの前にまず以下の作品が収録されている。
1. ネズミトランプ
2. うじわく男たちのホッケ定食
3. 変身
4. 海馬
5. 人間ごっこ(初出:少年少女SFマンガ競作大全集 Part3)
6. 人間ごっこ(初出:少年少女SFマンガ競作大全集 Part8)

Bb02

 これらのうち『うじわく男たちのホッケ定食』、『海馬』、『人間ごっこ』についてはカテゴリー"十月の空/CD-ROM/夜の帳の中で"において既述であるため、また『ネズミトランプ』はイラストレーション、『変身』(この単行本では題名は付されていない)は4コマ漫画2編というものなので、ともに"あらすじ"の説明が難しい。よってここでは割愛しています。)

Bb03

(注2:この単行本では『ぶつぶつ冒険記』の各回にサブタイトルが付されていない。また初出時の第1回ではその内容に「第一章 宇宙海賊」と「第二章 旅立ち」が含まれている。さらにこの「章」による区切りは、第五章のあと明確な表示が失われている。このへんややこしいので、ここでは初出時の1回分を単位として(1)(2)(3)……と数字をわりあててサブタイトルがわりの仮称としています。)
 前置きが長くてごめんなさい。では『ぶつぶつ冒険記』の、はじまりはじまり~。



(1)

Bb04

(少年少女SFマンガ競作大全集 Part9 1981年1月)

The teacher of our class is an ex-serviceman just returned from outer space. He says pupils that we must not long for outer space. But for the life of me, "Butsu-butsu No.5", can't help longing for it. I'm a bullied boy in my family, and I'm not popular with girls. But I can go to the space-port with a girl of my classmate, and we watch spaceships. Then a big ship which has bullet marks all over, enters the port. I, "Butsu-butsu No.5", long for a space-pirate that "defeats evil aliens, defends a beautiful princess, and fly around infinity outer space". I stare the man who looks wicked, is disembarking the ship. Then he becomes aware of my eyes, and asks me,
"Do ya possibly want to be a space-pirate ?"

 クラスの先生は宇宙帰りの退役軍人で、けっして宇宙などに憧れをもつなと生徒たちに言う。しかし、ぼく"ぶつぶつナンバー5"は、どうしても宇宙への憧れを捨てられないのだった。家族の中ではいじめられっ子で、女の子にもモテるほうではない。それでも付き合ってくれる同級生の少女と一緒に宇宙港へ行き、船を見る。するとそこに、被弾した痕だらけの大きな船が入ってきた。「わるいエイリアンをやっつけ 美しいプリンセスを守って 無限の宇宙を飛び回る」宇宙海賊に憧れるぼく"ぶつぶつナンバー5"は、その船から降りてきた、悪そうな男をじっと見つめる。すると男は気づき、訊いてきた、「おまえもしかしたら海賊になりたいんじゃないのか」……。

*アニメ等では宇宙SFとくれば、このころだと殆どの作品が戦争テーマのものだったように思う。そうした流行や定石をちょっと外して「宇宙海賊」に題材を定めたあたり、SF小説的というべきか? ただし、僕が読んだ限りこれは宇宙海賊の物語というより、「大宇宙の美女たち(と出会う少年)」の物語になっている。各回に必ず、さまざまなタイプの美女が登場してくれているからだ。これは後述したい。
 さて。主人公の故郷は地球なのだが(これは最終回で明言されている)、彼をとりまく環境にはいろいろ謎があるようだ。
 教師が退役軍人ということだけれど、彼は人間ではなくロボットのような外見をしている。軍務は(ある意味で不死身の)機械がこれを果たすようになった時代であるということだろうか? 
 また主人公も同級生の少女もクローンの兄弟姉妹をもつ身なのだが、人類が何かの事情で生殖能力を失っているのだろうかと思わせられる。そしてこのクローンは1人につき5体という決まりがあるのか、主人公も、同級生の少女も、あまつさえ父も母もそれぞれ5人いる(!)。これは彼らの生存率が非常に低く、いわば「保険」として予備が4人存在するのだろうか、などと考えてしまう。しかしそのへんの真の理由は劇中に何の説明も無く、全ては僕ら読者の想像にゆだねられている。
 こうしたことは宇宙船の名称しかりで、「ヘドニズム号」(綴りがhedonismならば"快楽主義"の意)というらしい(荷物に旗が立っている)けれど、その真の意味や由来は不明のままだ。
 「自分はしょせん、うだつのあがらない"補欠"でしかない。一生をここで終えるより、たとえ危険が伴うとしてもよそへ行ってみたい。見たことも無いどこか遠くへ、何のしがらみも無く、どこまでもどこまでも広がる、あの宇宙の彼方へ」……そんな思いと願いがあったのだろうか、主人公は家出に近いかたちで旅立つ。あくまでもコメディなのが吾妻マンガらしく笑って読んでいられるのだけれど、はたして主人公を待つ運命は? しかし連載第1回にしてさっそく、宇宙へ飛び立ったあとになってから、主人公はある重大なマチガイに気づくのだが……。

(今回の美女)
 同級生の「みんちゃん」が第1章で登場する。どうにかつき合ってはくれるのだが、人生の目標や理想という点になると主人公とは価値観が合わない(だからこのまま交際しても進展は望めなさそうだ)。主人公を旅立たせる遠因になった娘かも?



(2)

Bb05

(少年少女SFマンガ競作大全集 Part10 1981年4月)

"Butsu-butsu No.5" starts his new life as a space-sailor. He tries to work as a space-pirate, but the captain tells him,
"I entrust you with it, just attack a ship passes by."
Robot-mice are know well everything and be faithful to Butsu-butsu No.5, beyond his expectation. In compliance with request, they find a cannon seems to be of some use in the ship. But a beautiful botanic-girl comes along with interest, and operates the cannon by mistake. It cause an accident, "Butsu-butsu No.5" and his party are sucked out, they are thrown out into space ...

 主人公ぶつぶつナンバー5は、宇宙船乗りとしての人生を歩みだす。海賊の仕事(?)をしようとしたら船長は「おまえにまかすからひとつ通りがかりの船を襲ってみろ」と言う。思いのほか何でも熟知しているうえ忠実なロボットネズミたちは、ぶつぶつの求めに応じ、なんとか使えそうな砲を船内に発見する。しかし、面白がってついて来た美少女植物人間が砲を誤操作し、その事故でぶつぶつたちは船外、宇宙空間へと吸い出されてしまう……。

*「今時の宇宙船てなぁ改造に改造かさねて何百年も飛ばしてるシロモノばかり」というロボットネズミの台詞がある。人類は宇宙にまで進出したものの、なお資源の枯渇に悩まされているのだろうか? 水だけで成長し増えてゆく植物人間や、生物のような外見を持つ宇宙船などユニークな要素がいろいろ登場して楽しい。
 主人公が乗り組む宇宙船ヘドニズム号はかなり巨大で船内が広いらしく、できうるなら船内地図でも作成しつつ物語を読んでゆきたいところだ。しかし残念ながら、内部構造の推定を許さないような形状をしている(しかもそれが時々変化している?)ため、そうした楽しみ方をするのは難しいかも。これはちょっと惜しいと思う。

(今回の美女)
 植物人間が登場しているが、名前は不明。しかし、主人公に生命の危機をもたらし、かつその危機を救い、しまいには主人公が船長になるに至る"きっかけ"まで作ったわけだから、物語の展開に(また主人公の人生に)重大な役割を果たしている。かなり積極的な性格のようで、姉さん女房タイプとでも言うべきか。



(3)

Bb06

(少年少女SFマンガ競作大全集 Part11 1981年7月)

At last, "Butsu-butsu No.5" becomes a captain. But he is still a small drinker, blushes with woman. Then he finds a beautiful girl in voluptuous costume, drifts about in space. He succeeds in rescue the girl.

 ついに船長となった、主人公ぶつぶつ。しかしまだ酒は弱いし、女のことでは赤面するというウブさ。そんな彼が、宇宙空間に漂う、なまめかしい装束の美少女を発見、どうにか救出することに成功したのだったが。

*最初のコマに「第五章 新しい冒険の旅へ」とある。しかし「章」は、主人公が船長となったこのあとから、もはや設けられていない。"毎回タイプの違う美少女が登場しては、主人公の人生行路を方向転換させる"といったこのシリーズ全体としての構造が一見気づきにくい(ような気がする)のはこれが理由の一つであろうか。"女"のほうに焦点を合わせた章だてにはなっていないのだ。
 今回は、青少年があっさり恋に落ちるような条件のそろった娘の出現で主人公は行動せざるを得なくなっている。
 「二回目まではハードSFだったんだが…」と欄外書き込みにあるとおり(?)、「マンガ」的な風味が強まってきた感じ(特に宇宙服!)。描かれているメカニック類で明らかなように、絵的には当時の流行から殆ど影響を受けていないようだ。作者独自の世界観はむろん物語にもみられる。普通のラブロマンスではオチがつかないあたり、それが顕著なのではあるまいか。
 「10年前にもこんなような絵をかいたような気がするけど」という書き込みが何を指すか不明。ひょっとすると『きまぐれ悟空』、「三妖怪の巻」(少年チャンピオン1972年5月)で、揚羽(あげは)が芭蕉扇(ばしょうせん)を悟空に初めて用いる場面のことかも知れない?

(今回の美女)
 不幸のかたまりみたいな人生を送っているらしい王女サチ("幸"からきているとしたら、何という皮肉な名前だろう)が登場。変なコンピューターが謎の言葉をつぶやいたおかげで、からくも主人公たちに発見され救出されている。彼女によって主人公が学んだのは、同情と愛情はまた別なのだということか。一緒に生きてゆける異性を選ぶのは、ロボットネズミたちが警告したとおり、たやすくはなかった。



(4)

Bb07

(少年少女SFマンガ競作大全集 Part12 1981年10月)

"Butsu-butsu No.5" stops alone by a cafe on his way, and buys a clone machine from a peddler at there. But it becomes clear that the machine is a rejected article, when he has brought it back to his ship. In the end, the machine reproduces "Butsu-butsu No.5" the girl. "Butsu-butsu No.5" loses heart, but the girl insistences,
"Let's catch that peddler and get back our money."
She proceeds with a thing quickly, furthermore ...

 旅の途中「美人喫茶おーるです」へ1人で立ち寄った、主人公ぶつぶつ。彼はそこで行商人からクローン・マシンを買う。しかしこれが持ち帰って使ってみると不良品で、しまいには自分の"女の子版"が中から出てきた。がっくり落ち込む主人公に、クローンである女の子は言う、「あの行商人つかまえてお金取り返しましょうよ」。彼女はてきぱきと事をはこび、更に……。

*美人喫茶だの行商人だの、まるっきり地上でありふれているような要素を宇宙へ持ってきているところが、いかにもスペオペの典型!? 「おーるです」という屋号は英国のSF作家Brian W. Aldiss OBEのもじりか。

(今回の美女)
 自分に不足しているところを、ちょうど補うかのような性格を持つ異性なら伴侶として最善最適かと思いきや……。

(今回のメカ)
(1)宇宙船ヘドニズム号に上陸用小型ボートのような宇宙船が格納されていることが、冒頭シーンで分かる。その操縦席は正面から見て右、つまり船内では"左ハンドル"みたいな構造か。
(2)宇宙船ヘドニズム号には船首部分(の下面?)にレーザー砲か何か、攻撃用武装があるようだ。その破壊力はかなりのもので、標的宇宙船を切断することさえ可能らしい。



(5)

Bb08

(少年少女SFマンガ競作大全集 Part13 1982年1月)

One morning, "Butsu-butsu No.5" awakes to find that his ship is running out of fuel and all other necessities. He gets a job from a shipper by arrangements of robot-mice, determines to make money by cargo transport. The cargo is a creature by the name of "Zo-zo", and a recipient is Dr.Bloody. He knows Dr.Bloody is a wonderfully beautiful woman when he meets her. "Butsu-butsu No.5" loves her at first sight ...

 ある朝、目がさめてみると、船の燃料その他一切が底をつきかけていた。ロボットネズミの手配によって運輸会社から仕事をもらった主人公は、荷物運びで金を稼ぐことになる。荷物は「庭ゾゾ」という生物で、受取人はブラッディー博士。しかし会ってみたらこの博士はすごい美人だった。主人公ぶつぶつは彼女に一目惚れしてしまい……。

*他に「ぺったり星人のメス」が登場するのだが、人間型の外見ではない(読み進むと分かるとおり、これにはちゃんと理由がある)。

(今回の美女)
 研究に没頭している人物というものはそれ以外のこと、例えば異性なんぞには殆ど興味を持たないタイプなのかも知れない。相性(あいしょう)の適合うんぬんというより、始まりにおいて無理のある恋だったということだろうか。

(今回のメカ)
 前回登場している小型着陸船と同じもの(?)が出てくる。ただし今回は生物(大きさは地球の牛くらい?)を5頭ほど収納し運んでいるので、それから考えるとこの船はある程度の容積を持っているようだ。ロケット噴射口らしいものはコマによって数が異なり、正確なことはよく分からない。



(6)

Bb09

(少年少女SFマンガ競作大全集 Part14 1982年4月)

Butsu-butsu becomes an idiosyncrasy that transforms himself into a super-man. He helps a bullied turtle (?) when he eats out. The turtle says;
"I'll guide you around Ryuhguh the planet of my native place. Wonderfully beautiful princess welcomes you."
So he goes with the turtle, with great pleasure.

* This episode is a parody of "Urashima-taroh" the very well-known Japanese children's story.

 超人に変身する特異体質となってしまった主人公ぶつぶつは、外食に行った先でカメ(?)がいじめられているのを救う。すると「私の星 竜宮星へ御案内いたしましょう ものすごい美人の王女様がお待ちしています」とのこと。大喜びで後についてゆくのだったが。

*言うまでも無く『浦島太郎』のパロディ。

(今回の美女)
 恋の相手がお姫様で、可愛くもあり妖艶でもある女性とくれば、これはもう男の夢の極致だろう(?)。しかし高貴な身分の人というのはそれに伴う重責を宿命として背負っているもので……。やはり自分との"釣り合い"が大切であろうか。

(今回のメカ)
 1人乗りスクーターのような宇宙ロケットや、海洋生物を模したような形状の宇宙船が複数登場し、面白い。



(7)

Bb10

(少年少女SFマンガ競作大全集 Part15 1982年7月)

Captain Butsu-butsu seems have gotten into a dangerous area of the space without his knowledge, while he fell asleep at the wheel. Thanks to Robot-mice's pilotage, they barely succeed in escape. But Butsu-butsu is hit by a barrage of customers' questions at the bar, when he talks about that unexplored space. A beautiful woman presently speaks to Butsu-butsu. In fact, she has appeared by mysteriously strange way, but Butsu-butsu doesn't know that ...

 「居眠り運転」をしていた船長ぶつぶつは、知らぬ間に危険星域へ入ってしまったらしい。ロボットネズミの操舵によりからくも脱出に成功するが、居酒屋でその異次元空間について話していたら、客たちから質問攻めに遭う。やがて1人の美女が主人公に話しかけてきた。が、実は彼女は得体の知れない奇怪な仕方で出現しており、主人公ぶつぶつはそれを知らない……。

*これが最終回。憧れていた宇宙海賊とはだいぶ違い、女難に満ちた(?)旅であったせいか、主人公はホームシックになっている。それでも彼はきっと成長できたのだろう、少年から「おじさん」と呼びかけられているくらいなのだから。

(今回の美女)
 これぞまさに宇宙ならではの恋物語(?)。しかし生きる世界が違うというのは、やはりうまくやってはいけない? ……かくて主人公は、一度捨てた故郷へ帰ってみる決意をするに至ったようだ。

(今回のメカ)
 宇宙船ヘドニズム号について、ここで少しまとめておこう。

Hedonism


(単行本『ぶつぶつ冒険記』は、ここで終わっている。)



1 アスタウンディング・アンノウンの巻

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(マンガ奇想天外 No.5 1981年3月)

"Astounding unknown"

A first-year schoolgirl, Aato Parupu (Art Pulp), calls at sci-fi club of the school. The club's leader, Haad, is a schoolboy who has read domestic and foreign sci-fi stories more than 65,000. But, sci-fi seems mean for Pulp, such as "Young handsome doctor exterminates evil aliens" and "robot appears". She seems have an acquaintance who "is great, well acquainted with sci-fi". Haad the leader declares in rivalry with him;
"I'll fight to the finish !"
So he goes with her to meet the man. Pulp shows Haad to "Fantas-Tic science laboratory" ...

* Heroine seems be named for "pulp (magazine)" of sci-fi.

 学校のSF研に、1年生女子の亜亜都破流譜(ああとぱるぷ)がやって来る。そこには、SFを内外あわせて65,000冊以上読んでいるという生き字引の男子生徒、部長の歯阿努がいた。しかし破流譜にとってSFとは、「悪い宇宙人を若くてハンサムな博士が退治する」うえに「ロボットも出てくる」といったものであるらしい。彼女の知人には「SFにくわしくてステキな人」がいるというのだが、部長の歯阿努はがぜん対抗意識を燃やし、「勝負してやろーじゃねーか!」と、会いに行く事になった。案内された場所は『ファンタス・チック科学研究所』というところで、その中に入ってみると……。

*副題の「アスタウンディング・アンノウン」とは、astounding(仰天させる)・unknown(未知の)という意味らしい(かつ、どちらも1940年代に存在したSF雑誌の誌名でもあるようだ)。
 これが「ぱるぷ」ちゃんの初登場。ただしこれで分かるとおり、ほんらい彼女は『宇宙の英雄マッド・ファンタスチック』シリーズでレギュラー出演する脇役(紅一点)または狂言回しといった立場だったのであって、主役はこのあと登場する「チック博士」のほうだ。
 チック博士は、かなり強烈な個性の持ち主である。全世界のアナクロ(時代遅れ)SFを一身に引き受けたカタマリみたいなキャラクターで、しかも彼をとりまく世界はと言えば、そのアナクロニズムを完全に受け入れたうえで、ちゃんと成り立ってしまっている。
 かくて、最新のSF小説事情を知悉(ちしつ)しているSF研部長の歯阿努(ルビがふられていないが、「はあど」または「はあ つとむ」?)は、自分の碩学(せきがく)ぶりがまるで通用しない世界を目の当たりにして脱力しまくるという結果になる。
 そして、そのように周章狼狽(しゅうしょうろうばい)し、絶対だった自負心を粉々にされてしまってうろたえる歯阿努の姿を見て、SFマニアの読者達は大笑いし、あるいは苦笑する(のではないかと思う)。
 そう考えてみるとこの『宇宙の英雄マッド・ファンタスチック』シリーズは、やや読者を選ぶ作品のように感じられる(実際、初出はSF専門誌である『奇想天外』の別冊だった)。このマンガで笑うには、主人公チック博士のアナクロぶりがいかに凄まじいかを理解できねばならず、そのためには、判断の基準点となる"現在のSF事情"について知っていなければならないだろう。つまりは、SFの通でないと分かりにくい要素が根幹を成しているように思われる。

P03

 で……「ぱるぷちゃん」の存在が重要になってくる(少なくとも僕のように、SF知識の無い読者にとって)。「ぱるぷちゃん」は美少女だ。無邪気で純粋で、可愛い。それだけでもう充分過ぎるほど男の読者としてはうれしいけれど、別の、そして大切な魅力もある。それはこの娘が「現在のSF」におよそ知識が無いらしいことだ。その点において「ぱるぷちゃん」は、SFマニアではない層の読者から最も近い位置にいる。だから、より多くの読者とこの作品の間をとりもつのに絶好のキャラクターなのではないかと思うのだ。
 もう1つ。チック博士は、どえらい人物像ではあるものの、その外見はいかんせん地味に感じられる(これは二枚目な登場人物だと誰にでも付いて回る弱点かも知れない)。そして、どんなムチャクチャな状況でも沈着冷静であるゆえ、殆ど表情が無いかに見える。つまりは"主人公"たるうえで幾つか損をしている部分があるように思う。
 で……やっぱり「ぱるぷちゃん」なのである。彼女は外見も魅力的だ。だもんでついつい、チック博士以上にこの娘のほうへ目が向いてしまう。そしてふと考える、「この子が主人公だったらもっといいかも」などと。

P02

 あとあとになって「ぱるぷちゃん」は本当に"主人公"にまでなってしまったようなのだが、これにはやはり、そうなってしかるべき理由がいろいろあったのではないだろうか。
 細部に注目すると、「ぱるぷちゃん」の人物像だって、チック博士に負けず劣らず相当なもんである。黒い帯みたいな布で目元をちょっと隠しているだけ(衣服は全くそのまま同じ)のファンタスチック・マンを見、その正体がチック博士と気づかないという天然ボケの性格などは、もうあと一歩進んだらアブないのではという気さえする。
 それはさておき……。登場人物を別にして物語だけを見ても、作者のいろいろな考察がうかがえるようだ。英雄が活躍するためには悪役の存在が前提となるが、その最も基本的な部分に、皮肉なギャグがある(僕の記憶では米田仁志が自作マンガで似た事を描いており、英雄譚にまつわるこうした閉塞感は当時から広まっていたのかも知れない)。
 一体どうすりゃいいんだ! とばかりに言葉を失っているSF研部長、歯阿努の嘆く姿は、もしかすると創作において模索する吾妻ひでおの、別の横顔でもあったのだろうか? なお、放心した彼がつい口ずさんでいるのは『怪傑ハリマオ』(1960)の主題歌と思われる。



2 怪ロボット現わるの巻

P05

(マンガ奇想天外 No.6 1981年6月)

"Kai-robot arawaru (meaning : Mysterious robot emerges)"

Sci-fi club members call on Dr.Tic. Their true purpose is to have a good time with Pulp, but Dr.Tic shows them a robot which he experiments on. Club's leader, Haad, finds no words. Then a letter from Oguchi who is an alien of Cassiopeia spheroidal Nebula arrives ...

 チック博士のところへSF研の一同がやってきた。ぱるぷちゃんと遊ぶための訪問だったが、博士は実験中のロボットを見せてくれる。もはや絶句するばかりの部長、歯阿努。そこへカシオペア座だ円星雲のオグチ星人から手紙が届いて……。

*あいも変わらず全くアナクロなSFを地でいっているチック博士。どうもアジモフ(Isaac Asimov)によるSF小説『われはロボット』(I, Robot 1950)以前の世界に彼は生きているらしい(このへんのギャグは「ロボット三原則」を知らないと分からないだろう)。そして全てはそういう彼に調和し展開してゆく。
 現在そしてこれからのSF小説を信念のよりどころとして希望を持っている歯阿努と、そうしたものに全く縛られず独自のSF観で生きているチック博士の、まるっきり水と油のように調和しない構図は今回も続き、解決策となるような"第三の立場"とでもいうべきものはまだ見出せない。
 作者、吾妻ひでおは典型的な定石をふまえた"正義の味方"の物語を描きたがらないようなのだけれど、その理由は前回と今回のお話を読めば何となくわかる気がする。とはいえ物語の定石を否定するわけではなく、このお話でも、単なるギャグと見せかけておいてしっかり伏線を置いてある設計がみられる。
 副題に「怪ロボット」なる言葉があるが、僕の記憶が正しければ永松健夫『黄金バット』(1930~)でこの呼び名が出てきているようだ。



3 アメージング・ストーリーズ日本語版の巻

P06

(マンガ奇想天外 No.7 1981年8月)

"Amazing Stories nihongo-ban (meaning : Japanese edition of Amazing Stories)"

Haad the leader, criticizes severely a heap of sci-fi books in succession, at a club room in school. Then Pulp appears and says;
"Wonderful is sci-fi, isn't it ?"
She shows a magazine in her hand, "AMAZING STORIES".
Haad feels disappointed it. What is worse, 99% of his coterie magazine, though he is full of confidence, remain unsold every time.
"Somebody nobody appreciates sci-fi", Haad is burning with anger. Then Dr.Tic appears all of a sudden in the air. He says that he finished a time machine and has been the future ...

* "AMAZING STORIES" is a sci-fi magazine in 1920's of U.S.A.

 学校。SF研の部室で部長の歯阿努が、山と積まれたSF本を次々と酷評している。そこへ現れたぱるぷちゃんが「いいですよねーSFって」と彼に見せたのが"AMAZING STORIES"(SF雑誌、1926年~)。がっくりさせられたところに加え、自信作の同人誌は99%がいつも売れ残るので、「どいつもこいつもSFなんてわかってやしねえんだ」と憤懣(ふんまん)やるかたない歯阿努。そこへチック博士が空中に突然現れた。なんとタイムマシンをつくり、未来へ行ってきたという……。

*今回はこれまた定番であろう"悪い科学者"が登場する。しかしその先は定番どおりにならないのが吾妻マンガ。
 かつて、江戸川乱歩がこんな発言をしたと何かで読んだことがある。いわく、「推理小説のトリックは、外国の作家によって既に書きつくされてしまっている」と。だからその限界を打ち破るには……と乱歩の考察が後に続くわけだが、それはさておき、これと似た悩みを吾妻ひでおも抱えていたのかも、と僕は思った。すなわち「SFのアイディアは、外国の作家によって1940年代のパルプマガジンの頃に描き尽くされてしまっている」という感慨を。古色蒼然たるチック博士と、最新鋭のSFマニアである歯阿努とがまるで噛み合わないこのマンガの構図は、作者の内面の葛藤を反映していたのだろうか。



4 SF大会の巻

P07

(マンガ奇想天外 No.8 1981年11月)

"SF taikai (meaning : Sci-Fi convention)"

22nd August Osaka. A huge monster ( = Sci-Fi god) appears at a harbor and makes a landing. While Pulp arrives at the place of sci-fi convention (DAIKON III), but loses sight of members of sci-fi club. Hideo Azuma shows her around the convention.

 8月22日大阪。港に巨大怪獣(SF神)が出現、上陸した。一方、SF大会(DAIKONⅢ)へやってきたぱるぷちゃんは、部長やみんなとはぐれてしまい、吾妻ひでおにエスコートされ会場を案内してもらうことになった。そこで彼女が見たものは。

*実際にあったSF大会についてのレポート的な要素のある内容。とはいえ9割がたはフィクションだろう(と思う、たぶん……)。



5 めとろぽりすの巻

P08

(マンガ奇想天外 No.9 1982年1月)

"Metoropolice (meaning : metropolis)"

Pulp and members of sci-fi club come and see Dr.Tic at his laboratory. A beautiful girl, Micchy, "became(s) an assistant since yesterday", welcomes them.
"She's more pretty than me", Pulp gets a shock. The leader of club, Haad, loves Micchy at first sight. Dr.Tic presently appears and says;
"How is the condition of Micchy ? Quite skillful artificial girl, isn't she ?"
All members are astonished at his remark.

* This story seems a parody of Osamu Tezuka's "Metropolis"(1949).

 ぱるぷちゃんとSF研の一同が、チック博士の研究所へ遊びに来た。すると、「先日から助手」になったという美少女、ミッチーが出迎える。「あたしよりかわいいわ」とぱるぷちゃんは大ショックを受け、部長の歯阿努はミッチーに一目惚れ。やがてチック博士が現れて言う「ミッチーの調子はどうだい なかなかよくできた人造人間だろ」。全員が仰天するのだったが。

*シリーズ『宇宙の英雄マッド・ファンタスチック』はこれが最終回。可愛い(そして可哀想な運命の)美少女、という題材に新鮮味は乏しいかも知れないが、読者としてはもうちょっと感傷的なエピソードも読みたかった……などと不満を言うのは贅沢だろうか。どうも手塚治虫『メトロポリス』(1949)のパロディであるらしい?
 (『メトロポリス』には同名の古典サイレント映画も存在するが、そのヒロインはマリアというロボットなので、ここでは手塚マンガのほうを基にしていると判断すべきかと思う(こちらにはミッチイという両性具有の人造人間が登場する)。藤子不二雄Aによれば手塚作品の『メトロポリス<大都会>』は、『ロストワールド<前世紀>』(1948)および『ネキストワールド<来るべき世界>』(1951)とともにSF三部作として知られるもので、それまでの”漫画”のイメージを一変させた画期的な作品群であったという(角川文庫『メトロポリス』解説p.306)。)



1 ぱるぷよ今夜もありがとう

P09

(単行本描き下ろし 1985年2月)

"Pulp yo konya mo arigatoh (meaning : Thank you, Pulp, tonight again)"

Pulp calls at Dr.Tic's laboratory, but he seems have gone out. Then a SOS alarm blows.
"Well, I'm always dependent on Dr. and Fantastic-man.", she thinks,
"I'll try to solve a case by myself."
So she goes into action alone, blasts off to outer space. But a trap is ready and waiting for this admirable girl...

 ぱるぷちゃんがチック博士の研究所をたずねる。しかし博士はお出かけで留守らしい。そこへSOSの警報が鳴り出した。「そうだわ いつも、あたしったら博士やファンタスチック・マンのおせわになりっぱなしだもん」と考えたぱるぷちゃんは「一人で事件を解決してみよう」と決意、単身で宇宙へ出動する。しかし、けなげな彼女を罠が待っていた……。

*設定がそのままなので、本来なら『宇宙の英雄マッド・ファンタスチック』シリーズ6番目のエピソードになるかと思われるが、あえて、ぱるぷちゃんを主人公に昇格した特別編という扱いになっている(内容としてはそれで間違っていないだろう)。別シリーズの主人公であるDr.アジマフが出演し、ぱるぷちゃんと絡んでいるのが微笑ましい。
 ふと気になったのは、悪役たちの中にSF研メンバーとそっくりの男がいる事で、はて同一人物なのか、そうだとすればどのようないきさつでこうなったのか、このへんは謎がある。



2 ぱるぷちゃんの大冒険

P10

(月刊ベティ創廃刊号 1982年8月)

"Pulp-chan no dai-bohken (meaning : The great adventure of Pulp)"

A beautiful girl goes horseback (?) riding in wasteland (?).
"Somebody gets on my tail ... two ...nah, three ..."
She gets in a saloon and eats a cup of shiruko (Japanese sweet soup).
"You're hunted, aren't ya ?"
A woman who is in the saloon says her. The beautiful girl sheds tears and tells her name as "Art Pulp". Then pursuers show up ...

 荒野(?)のような空間を、馬型の機械に乗って1人の美少女が行く。「尾けられてるわ二人……いえ三人……」。とりあえず彼女は店へ入り、しるこを食べるのだった。「あんた追われてるわね」と横にいた女が言うと、図星を指されて涙する美少女は「あーと・ぱるぷ」と名乗る。そこへ追っ手がやって来て……。

*ヒロインの名前と顔はまさしく「ぱるぷちゃん」なのだが、物語世界は『宇宙の英雄マッド・ファンタスチック』シリーズと全く関係が無い。ひとことで言えばアメリカ西部劇を宇宙でやっている(これぞまさに"スペースオペラ"!)といった内容だ。舞台設定もお話もまるっきり西部劇で、拳銃による決闘、酒場(?)、悪党一味などが登場し、てんで"サイエンス"フィクションな要素は無いように思う。強いてこじつけるなら使われている拳銃が珍品で、殺傷力は無いらしく、発砲による弾道で衝撃波を起こし、それによって相手のブラやパンティをはじき飛ばす、という点か。おまけにこの世界には男が存在しないのか一切登場せず、出てくるのは美少女ばかり。
 なんだこりゃあ!?
 まぁあれです、可愛いもの美しいもの、そして面白いものだけで構成された世界というのはたしかに楽しい。カタいこと言いっこなし、マンガなんですからね。とっても可愛くてちょっぴりエッチな、うれしい一品。できればもう何作か、このシリーズで読みたかったところ。メカ馬(仮称)もユニークだし。2丁拳銃のぱるぷちゃんとか見たい(いや、本当に)。



1 Dr.アジマフ ロボット連れて

P12

(別冊奇想天外 No.8 SFマンガ大全集 Part3 1979年8月)

"Dr.Ajimafu robot tsurete (meaning : Dr.Ajimafu takes a robot along)"

A small spaceship goes in a multitude of stars. There are a man in a spacesuit and a mysterious robot on board. The man dumps a broken robot's head out of the ship. The robot without his head lifts up an arm of something and prays (?). Then someone knocks on a door of an airlock ...

 小型宇宙船が星の海を行く。それに乗り組んでいるのは宇宙服姿の男が1人と、何やら怪しげなロボットが1体。男は壊れたロボットの頭部を宇宙空間に捨てるけれど、首なしロボットが何かの腕を捧げ持ちつつ祈る(?)と、船外からエアロック(出入口)をノックする音がして……。

P11

*Dr.アジマフという名前は、SF作家アジモフ(Isaac Asimov)になぞらえたものか。基本設定としては"宇宙最大の科学者にして冒険家"であるカーティス・ニュートン(Curtis Newton 『キャプテン・フューチャー(Captain Future)』シリーズの主人公)を模しているのではと思うのだが、定かではない。
 このDr.アジマフとR・ブキミ(今回その名前は出てこないが、後このように呼ばれるようになる)は殆ど何でも引き受けるが、殆ど何にも解決しない。また武器を駆使しての破壊活動や戦闘行為はしないようだ。では彼らの有能さはどこにあるのか? もしかするとそれは、読んで面白く楽しい法螺(ほら)を吹く(著述をなす)ところにあるのかも知れない(『Dr.アジマフ 各駅停車』あたりから考えるならば)。
 おそらくはっきり言えるのは、彼らが行く先々で必ず珍妙な事件に遭遇する事だろう。それを冒険と呼ぶならば、彼らの冒険はおよそ平凡ではない。カッコ良さとは無縁だが、月並みさともまた無縁のようだ。
 Dr.アジマフもR・ブキミ(の元になった"不気味くん")も、作者たる吾妻ひでおの自画像から発展し生まれたキャラクターであるらしい。いさかいばかり起こしているようでもあり、息の合った漫才コンビのようでもあるこの1人と1体は、ボケとツッコミを無限に繰り返しつつ、今日も無限の宇宙を旅しているのだろう。

(蛇足:今回、「朝日の当たらない家はアーサー・C・クラーク」という台詞がある。僕は初出の当時にこれを読んで、何かSFマニアでないと分からない冗談なのだろうと思っていた。ところが、どうもこれは、「アーサー(朝)・C(日)・クラーク(暗く)」という、単なる駄洒落だったのではないか!? と気がついた。
 惑星の全住民が死に瀕(ひん)しているという非常事態に、こんなどうしようもない台詞しか出てこない主人公も主人公だし、そんな主人公に助けを求める美女も美女ではある……。しかし、こんなロクでもない冗談を理解するのに30年以上かかった(!)僕こそ、もしかしたら宇宙最強のどうしようもないヤツなのかも知れないと思うと、もうあまりにも情けなくて、自分で自分を宇宙の果てまでブッ飛ばしてやりたくなったのでありました……。)



2 Dr.アジマフ 安全着陸

P13

(マンガ奇想天外 No.1 1980年4月)

"Dr.Ajimafu anzen-chakuriku (meaning : Dr.Ajimafu safe landing)"

Dr.Ajimafu and the robot drop into a place "cabaret Sargasso open today". Women welcome them, but Dr.Ajimafu makes women call their manager and complains,
"Isn't any more rare girl here !?"
The manager accepted a challenge, but after all, Ruee the newcomer is assigned to Dr.Ajimafu. She looks as if to be disguised herself as a cat, and there is a sorrowful reasons on her ...

 「キャバレー サルガッソー本日開店」というところへ立ち寄ったDr.アジマフとロボット。しかし女たちが出迎えるとマネージャーを呼ばせて、「もっとめずらしいのはいないのか!」とケチをつける。マネージャーは挑戦を受けてたつが、結局Dr.アジマフの席には新人のルーがあてがわれる。猫のコスプレをしているみたいに見える宇宙娘の彼女には、悲しい事情があった……。

*これが第2話になるようなのだが、Dr.アジマフの宇宙船は第1話『Dr.アジマフ ロボット連れて』で1度大破してしまったものと同型に見える。これは同じ型を再度購入などして使っているか、あるいはこのお話が実は『……ロボット連れて』よりも前の出来事ということなのかも知れない? 最初のコマで「どっちを向いても宇宙」という屋号のスナックが下方に見えるのだが、これはTVアニメ『キャプテン・フューチャー』(1978年11月~1979年12月放送)の主題歌のパロディではないかと思われる。



3 Dr.アジマフ 各駅停車

P14

(エイリアン(少年キング増刊)1983年1月号)

"Dr.Ajimafu kakueki-teisha (meaning : Dr.Ajimafu a local ship)"

Dr.Ajimafu has neither spaceship nor money, on top of that, his partner, R-Bukimi (meaning : R-Eerie) the robot runs out of patience with him. Then a huge luxury liner passes by. Dr.Ajimafu steals into it according to R-Bukimi's suggestion. Princess Jelly the Her Supreme Highness, guardian of Iron River Empire, have gone on board ...

 宇宙船もカネも無いDr.アジマフは、とうとう相棒のロボット、R・ブキミにさえ愛想を尽かされる。しかしそこへ巨大な豪華客船が通りかかった。Dr.はブキミの提案でその船内に忍び込むのだが、乗客には鉄河帝国皇帝陛下の王女、プリンセス・ゼリーがいて……。

*「鉄河(てつが?)」というのは誤記ではなく、本当にそう書いてある。ともすると気づかないかも知れない? 単行本では3番目に配列されているが、初出データに従うならこれは"第4話"になるようだ。プリンセスはものすごく妖艶な装束で登場しており、フルカラーでないのが実に残念。Dr.アジマフには複数の著作があり、その読者にはすごく高貴な身分の人もいるらしいという事が今回のお話から分かる。



4 Dr.アジマフ 懺悔録

P15

(マンガ奇想天外 No.2 1980年7月)

"Dr.Ajimafu zange-roku (meaning : Dr.Ajimafu Confessions)"

When Dr.Ajimafu was quite new as an universal consultant of planet, he was in high spirits. But he couldn't get a job, was turned adrift in outer space. Then a robot of his partner found a planet which seemed inhabited ...

 ××××年、なりたての惑星なんでも相談者であるDr.アジマフはむちゃくちゃにはりきっていた。しかしなぜか仕事の依頼はひとつも来ず宇宙をさすらう。そんな折、住民のいそうな星を相棒のロボットが発見して……。

*これはDr.アジマフの回想をオムニバス形式に描いたもので、お話は開業(?)直後の頃にまでさかのぼって始まる。この時点での彼らの宇宙船は魚(マンボウ?)のような形状だった事が分かる。それがなぜシリーズ初登場(『Dr.アジマフ ロボット連れて』)では別の宇宙船に乗っているかというと、これを読めば察しがつくのだった。

(単行本『ぱるぷちゃんの大冒険』(ぱるぷコミックス 1985年)は、ここで終わっている。)





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