はじめに(1)
1月10日、ハヤカワコミック文庫『ネオ・アズマニア3』が発売された(画像はその表紙)。正味223ページ、税込み定価651円。収録内容は以下の通り。
○ぐろぐろ動物ランド
○宇宙の英雄マッド・ファンタスチック
○ぱるぷちゃん
○シャン・キャット
○ドクター・アジマフ
○あとがき(4ページ)
あとがきでは、各キャラクターのみならず「フキナガシ(シュール・フィッシュ)」に「タバコおばけ」、「ブキミ」らも久々にちょこっと描かれており楽しい。イトミミズに関する謎(?)が解き明かされるくだりでは吾妻夫人も初々しく登場。創作における独創性と、エンタテインメントとしての普遍性をいかに両立させるかという、プロならではの苦悩について披瀝(ひれき)されている。
この機会に、吾妻作品のなかで「スペースオペラ」に分類されるであろうシリーズについて、紹介させて戴こうと思う。僕が所有している単行本では『ぶつぶつ冒険記』(1982)と『ぱるぷちゃんの大冒険』(1985)の2冊がそれに該当しそうだ。なお前者はハヤカワコミック文庫『アズマニア1』(画像)に収録されている。だから、どちらも入手に困難は無く読めるだろう。
「スペースオペラ」とは宇宙を舞台とした冒険活劇のことで、時に蔑(さげす)みを含んで用いられる呼称であるらしい。「アメリカ西部劇を宇宙でやっているだけのような内容だから、所詮は陳腐な読み捨て娯楽の域を出ないであろう」ということだとか。とはいえ、SFについてまるで分かっていない僕のような者にとっては非常に読みやすいジャンルでもある。地上で起こりうるような事件が扱われているということは、それだけ物語の世界に同調し易い。逆に荒唐無稽きわまりないような話でも、遠い宇宙の彼方での出来事となると、地上でそれをやられるよりずっと抵抗も少なく受け入れる事ができる。やたらとメカばかりが出てくるとしても、それが現実の科学技術の延長上にあるものなだけに、これまた読んでいて納得し易いのだ。
かくて、気分転換のための代償体験としては、手に汗握る命懸けの冒険、かっこいいメカニック、観光旅行(?)の要素、そしてあとは美女が登場してくれたらもう充分満足、という事になる。
で……真摯(しんし)にSFを探究している人たちは、僕のような読者によるあまりにも次元の低い期待と要求に失望し、時に義憤をおぼえることになってしまうようだ。いわゆる「スペースオペラ」(と、主にSF小説ではない領域で自称されている作品群)には、作家の想像力によって未知の世界を描出して見せ疑似体験させるといった創造性はおよそ無い、どうかそのようなものを「SF」とは呼んでくれるな、と。
そうした嘆きは僕にも正論に感ぜられ、申し訳なく思ってはいるのだが……(冗談や揶揄(やゆ)で言うのではなく、本当に)。
俗受けする「SF」のこうした問題点については、他でもない、吾妻ひでお自身がこれらの作品、『ぶつぶつ冒険記』や『ぱるぷちゃんの大冒険』において何度も取り上げているようだ(これは今後、個々のお話を紹介するつどに少しずつ書いてゆけると思う)。つまりこれらの作品は「吾妻流スペースオペラ」というよりも、「スペースオペラに関する吾妻流の考察と風刺」になっているのかも知れない。
SF文化にとっておそらく好ましくない読者であろう僕のような者がこうした作品のあらすじ紹介作文を書くのもなんですが、どうか無知や勘違いはご海容のうえお読み戴きたくお願い申し上げる次第です。