(少年チャンピオン 1978年9月4日号)
"Fura-fura shohnen hyohryuh-ki (meaning : A tale of a drifting boy)"
An earnest boy falls down at a sidewalk under the scorching sun. He gets up when he is stepped on by 3 little boys. Then he becomes rough character as if he is a different person ...
「それじゃお母さん 塾へ行ってきます」と家を出発した主人公。歩きながらも読書をするほど勉強熱心だが、強烈な夏の陽射しにやられ、道路上に倒れてしまった。そこを通りかかった少年たち3人が主人公を踏みつけてゆく。頭にきた主人公は彼らをぶちのめし、その持ち物をまきあげてタバコをふかすのだった。それから彼はタクシーをひろうが、「どこまで?」ときかれて「海でも行こーかなー」という返事。塾へ行くつもりは無いようで、どうも彼の様子がおかしい……?
*太陽がまぶしかったから人を殺した、というのがカミュ(Albert Camus)の『異邦人(L'Etranger)』だけれど、こちらは、太陽がまぶしかったから主人公の別の人格(?)が現れる。通読すると夏の太陽が物語の全体を支配しているかのようで、やはりパロディになっているのでは? もしかするとまたいつか、主人公は太陽によって別人のように行動するのだろうか。
台詞にある「犬笛」うんぬんというのは、この年(1978)に同名の映画(原作は西村寿行)が公開されたので、それにひっかけたギャグらしい。
(注:以下は単なる思い出です)
『ふらふら少年漂流記』は誰かの原稿が落ちる(締め切りに間に合わない、の意)ということで急きょ吾妻先生に原稿依頼が入って生まれたもののようです。で、無気力プロは予想外に忙しくなって、僕にお呼びがかかり、お手伝いさせて戴けることになったのでした。
この作品は夜間に制作されたのですけれど、たしか夜が明けて原稿がほぼ完成した時点で、くだんの原稿が落ちることなく間にあったという連絡が入り、それによって雑誌への掲載は予定よりずれることになったと記憶しています。それでも朝には無気力プロへ編集者が来訪して原稿を受領し、すぐ社へ引き返したようでした。この時の編集者はたしかメガネをかけた細身の男性で、その容姿から考えると(この作品でも弁当を奪われる父親役に似顔絵で出演している?)かのWさんではなかっただろうと思うのですが、定かではありません。
途中、木の実が出てきますけれど、これは沖由佳雄さんが図鑑で調べて品種を決定、作画しておられました。無気力プロの本棚には児童向けの図鑑がいろいろ揃えてあり、時々作画の資料として用いられていたようです。
(補遺)
本棚の、この図鑑が収まっている部分は写真撮影され、雑誌『スターログ(STARLOG)日本版』に載ったことがあります(1980年12月号 P.72)。
これは「読者参加推理劇場:本棚あてクイズ」なる企画で、本棚を撮った4枚の写真から、それが誰の部屋のものかを当ててみよ、というものでした。
豊田有恒、鏡明、中島梓、そして吾妻ひでおの本棚が写っているのですが、残念ながら写真の鮮明さはいまひとつで、かつ吾妻先生の(自宅ではなくて無気力プロの)本棚の写真は、どうも3枚撮ったものを切り貼りし、1枚にしてあるようです。とはいえ、当時の無気力プロの書架にどんな本があったかを記録したものとして興味深く、貴重であると申せましょう。図鑑の他は殆ど全部SF小説ですが、『文芸雑誌 海』などの背表紙も見えています。
この記事には「わが理想の書架システム」という題で一言インタビューが行われており、
「大きさは4帖半(引用者注:原文のまま)位で、4面ビッシリ本棚が詰まった、貸し本屋スタイルが望ましい。ただし、真ん中にふとんをしいて寝れることが条件です。」
というのが吾妻先生の返答。果たしてこの理想は今、ご自宅で実現しているのでしょうか?
なおこのクイズの正解は、同誌1981年3月号P.105に発表されているのですけれど、それによれば応募総数222通のうち正解者は213名で、当選した5名には賞品として『パラレルワールド大戦争』『幽霊時代』『翔べ翔べドンキー』『最後のユニコーン』がそれぞれサイン入りで贈られたようです。
え~~、それで、僕がやらせて戴いたのは消しゴムかけやベタ(指定された部分を墨汁で黒く塗ること)などだったのですけれど、簡単な模様とかも描かせてもらえました。自動車が海水浴場へ突撃してくるコマの人々の水着や、画面左端にいる腕輪をした女の子の水着に"SEPAC"と書き込んであるのがそうです。「そんなブランドあったっけ?」と首をかしげるのはお洒落な人で、"SEPAC"というのは粒子加速器を用いた宇宙科学実験を意味する略称だったのです。付け焼刃で変な見栄を張ってそんな悪戯書きしてたんですね。
しかし最も罪深い失敗は、スイカ畑の場面、「この人 正常じゃないみたいよ」という台詞のあるコマでしょう。しゃがんでいる女の子のスカートの奥、パンツがちょっとだけ見えているのですけれど、これ、犯人は僕なのです、吾妻先生じゃありません。
……ちょっと言い訳をさせて下さい。真夜中にマンガを描くというのは、何かこう一種独特のものがつきまとう作業で、何時間かそれに取り組んでいると、自分がその作中の世界へ本当に半分入ってしまっているみたいな感覚になってくるんですよ、僕だけかも知れないですが……(ただマンガを「読む」だけであれば、真夜中であってもこうした錯綜は起こらないような気がします)。だもんで、トビラから始まって11枚目にまで作業が進む頃になると僕の頭はすっかりおかしくなっていて、登場キャラクターの女の子が絵の中に生身で実在しているみたいな感じがしてきたのでした。マズいのはその後で、僕はふと思いました「こんな可愛い子のパンツ見られたら幸せだなぁ」……結局僕は欲情に負け、無断で線を1本、描き加えてしまったのでした。次のページ、「生きてるわよ」のコマも、僕のしわざだったろうと思います。
完成したページは吾妻先生がチェックしておられましたから、こんな線を引いた覚えは無いとすぐ気付かれたことでしょう。どうも先生はあえて見逃し許して下さったようなのです。
吾妻先生、本当にどうもすみませんでした、とほほ……今さらザンゲしても遅すぎるでしょうけど……。