I'll introduce you 2 rare series of Hideo Azuma's works at this page.
"Bratto Bunny" is a story of an imaginary creature.
"Gansaku Hideo Hackenden" is a Japanese historical story.
はじめに
(2008.1.21.付記:『ぶらっとバニー 完全版』の1と2が発売された。おくづけでは2008年3月1日初版発行となっているが、1月19日が発売日だったようである。最初の単行本と同じ徳間書店の発行なのだが、カバーに「完全版」とあるとおり、今回は全話を読むことができ、かつオマケの収録がある。)
1……『バルバラ異聞』
『不条理日記2006』
2……『北海道・浦幌記』
磨湖丈一(北風六人衆)による劇画
『SPECIAL初対談
吾妻ひでお×松久由宇』
『バルバラ異聞』
(COMICリュウ 2007年5月号)
「club バルバラ」へ入った作者は、青羽ちゃんと楽しいひと時を過ごす。しかしそこに……。
『不条理日記2006』
(COMICリュウ 2006年11月号)
「○月×日 ヘビがちょっと通らせてくださいと言って来る」そして……。
『ぶらっとバニー』全話をこの21世紀になってから読むのはいささか難しかったはずで、かつ単行本初収録のオマケ付きなのは大変お得ではないかと思う。価格は各巻それぞれ648円+税。ぜひこの機会にどうぞ。
(公式サイトには作者による以下のような発言があり、イラストが添えられている(「ひでお日記」、'08.2.10.「スケジュール」更新として公開)。
「バニーは当時アニメの話もあったが 白目がアレだとゆーことでボツった」
「こないだバニーの弟「ラビイ」てのを考えた、瞳がある。アニメ化を狙っている セコッ!」 (この既述は単行本「うつうつひでお日記 その後」のp.101に収録されている))
さて……。
「珍種」ではない吾妻マンガがそもそも存在するのかどうか良く分からないけれど、そういう吾妻マンガ作品群の中にあってなお「珍品」と思えるものがある。
一つは『ぶらっとバニー』、もう一つは『贋作ひでお八犬伝』だ。
なぜそう考えるかと言うと、類似のものとして同じジャンルに当てはまりそうなシリーズ作品が他に無いからである。
『ぶらっとバニー』は主人公が人間ではなく(!)人間に近い容姿をさえしていない架空生物であり、(サイレント漫画である『タバコおばけだよ』とかを別にすれば)こういう作品は吾妻マンガで他にはたぶん無い。また『贋作ひでお八犬伝』は戦国時代の日本を舞台にした伝奇もの時代劇で、この舞台設定も、読みきり短篇とかを別にすれば吾妻マンガに唯一のシリーズになると思われる。
きょうは前者、『ぶらっとバニー』について少し。
主人公はどうもウサギであるらしい。が、ちょっと普通とは違う。彼には腕が存在しない。長い耳(だろう)の先端が手の役目を果たすのである(あなたは、こんな奇異なデザインの生物を他にどこかで見た事があるだろうか? 僕は無い)。TV(NHK教育)で放送されたアニメ『電脳コイル』(原作・磯光雄)には、耳がゲンコツみたいな架空生物(電脳猫ミゼット)が登場するけれど、ひょっとするとそのご先祖はこの『ぶらっとバニー』なのではという気がする(真相は不明だけれども)。
さて、主人公は或る特殊な能力を持っている。少年マンガでそうなると「悪を懲らしめる正義の味方だろ?」と思われるかも知れないが、どっこい、そういう定石がこの作品には当てはまらない。毎回いろいろな問題が発生しその解決に取り組む、という図式はあるのだが。
ここまできて「それは藤子不二雄の定番ではないか?」と考えるかたもおられるやも知れない。確かに、奇妙な生物(ないしはロボット等)が登場する、SF的な少年マンガは藤子不二雄の十八番(おはこ)だろう、『オバケのQ太郎』や『ドラえもん』はあまりにも有名だ。しかしそれらの著名作品と比べた時、すぐに気付く違いが『ぶらっとバニー』にはある。
少年たちが登場しないのだ。
藤子作品では、奇妙で強烈な個性と特徴を持つキャラクターと共に、たいてい少年たちが登場していると思う(正太やのび太など)。そして更に美少女1人、大柄な体格の少年1人、勉強のできる少年1人……といった人物群が脇を固めて、シリーズが展開してゆく。これは読者の分身たちを登場させることで子供たちを物語世界へ引き込み、仮想的に参加させる(更には、「ごっこ遊び」をするにもこうした様々なタイプがいるのはその入口を広くしそうだ)と同時に、現実離れしたキャラクターおよび物語に説得力を増す役割を果たしているように感ぜられる。
『ぶらっとバニー』にはこうした、物語と(読者のいる場所である)現実との橋渡しをする要素が、殆ど無い。少なくとも、レギュラーとして毎回必ず登場し、相手役や脇役の立場でこれを果たすキャラクターは、出てこない。あえてこうした描き方をする作劇手法は吾妻マンガの特徴のひとつであり、この『ぶらっとバニー』は、それがよく現れているように思う(『シャン・キャット』の番や『ななこSOS』の飯田橋などはわりと現実的な少年だが、それでもほぼ1人きりで登場しており、いずれにしても「物語と、読者の現実とを結びつける」という工作は、吾妻マンガでは、さほど重視されていないような気がするのだが、どうだろうか)。『普通の日記』によれば『ぶらっとバニー』では編集部からの注文が細かく出されていたらしいので、もしかするとその意向もあったのかも知れないのではあるけれど……。
とはいえ、「これは編集部からの指示の結果ではあるまい」と思える点がある。
”この主人公は作者の内面的な自画像なのではないか?”
という印象がそれだ。このことは最終回でとりわけ強く感じられるように思う。これはけだし当シリーズの演出手法以上に重要で興味深い事なのではなかろうか。
『ぶらっとバニー』は最初、徳間書店のアニメージュ・コミックスで単行本となったが、これは2巻で終り、最終回までが収録されないままになっていた。全話を収録した単行本が世に出るのは1997年、マガジンハウスのMAG COMICSで再販が実現してからのことである。前者にのみ収録されている読みきり作品もあるので、ここでは両方をテキストに用い、あらすじを紹介してゆこうと思う。