ちびママちゃん<完全版>


ちびママちゃん完全版1

 『ちびママちゃん』の全話を収録する「完全版」単行本が2015年4月、復刊ドットコムから刊行開始された(上の画像は、その第1巻のカバー)。
 『ちびママちゃん』については既に旧サイトでおおよその紹介をしたので、ここでは、そこに書けなかった事柄を扱おうと思う。

 旧サイトで紹介を完了できなかったのは、テキストに使える「完全版」単行本が当時存在しなかったからである。初出の連載が進行中であった1977年に単行本の刊行は開始されたものの、全話の収録を完了する前に単行本化が中断するような形で止まったゆえ、シリーズの最終回ほか数話が未収録のまま幻になっていたのだ。

 「幻」などと言うと大袈裟に聞こえそうである。しかし、そうじゃない。お疑いとあらば、お試しあれ、掲載された雑誌のバックナンバーが発見できるかどうかを。僕は、探索を開始するのが遅すぎたせいもあろうけれど、入手には成功できなかった。このころの「月刊」マンガ雑誌、それも少年向けのそれは、週刊の少年マンガ雑誌に比べて発行部数が少ないのか、発見しにくいようなのだ。

 乏しい経験から申し上げるけれど、もしあなたが同じ試みに着手なさるなら、たぶん勝ち目の無い賭けになるだろうと思う。

 探す手間に加えて、予算もかかるはずだ。連載中に出た2冊の『ちびママちゃん』単行本さえ、既に初刷から30年以上が過ぎている。もし発見できたとしても、これまたプレミアのついた価格になっているだろう。

 吾妻マンガの中には、何度も繰り返しいろいろな単行本へ収録されている作品がある一方で、全く単行本に入らない、或いは一度こっきりしか単行本に収録されたことの無い作品も多い。正統的な少年マンガとして分類出来そうな作品群は、大体いつもそうした憂き目を見る筆頭であり、『ちびママちゃん』もそのひとつなのだ。

 何かの理由で、連載当時の出版物であらねばならぬ、というのでない限りは、この機会に「完全版」の単行本を入手しておくほうを、むしろお勧めしたい。

<完全版>第1巻の内容は以下の通り。

・ちびママちゃん誕生
・やよいちゃん大フンセン!
・お手伝いさんでがんばるやよい
・魅力の日当五千円
・テレビに出てタレントになろう
・まぶたの父
・ああ大黒柱
・ラブラブ・ライバル
・観光バスでアルバイト
・ゆうかい大作戦
・甘い誘惑
・白い天使
・晴れ着がほしい!
・やよいのお手伝いさん
・やよいのウエイトレス
・屋台でもうけよう!
・やよいの家庭教師
・海のアルバイト

 『ちびママちゃん』でこれまで単行本未収録だった話は、シリーズ後半に集中している。それゆえ今回<完全版>の第1巻で初めて単行本収録されたのは、以下にあらすじを紹介する2つの話、『屋台でもうけよう!』と『海のアルバイト』のみだ。

 初出の順序に従うならば本当は、上記のリストで『やよいのお手伝いさん』の前に『やよいの婦警さん』が入る。また『海のアルバイト』の前には『やよいの花屋さん』が来る。しかしそうすると第1巻で「初収録」の話は1つきりになってしまう。その辺の配慮からなのか、ここは収録の順序を変えたようだ。

屋台でもうけよう!

屋台でもうけよう!

(月刊少年チャンピオン 1976年5月)

 あいも変わらずのダメ人間で、家に災難しか持ち帰ってこない真二。が、本当に反省したのかどうか、マジメに働こうと思い立った。意外な能力を発揮して、真二は屋台の自作を成し遂げたが……。

海のアルバイト

海のアルバイト

(月刊少年チャンピオン 1976年8月号)

 やよい、真二、五郎の3人は、真夏の海水浴場に店を出し、かき氷を売るアルバイトを開始する。だが真二は夏風邪で、さっぱり戦力にならず、しかも女をひっかけるのに忙しい。その悪だくみはどんどん暴走して……。

*トビラで、やよいは胸に大きく数字がプリントされたシャツを着ている。これは当時、アメリカン・フットボールのユニフォームを模したような、こうしたデザインのシャツが流行したゆえではないかと思われる。

単行本第2巻カバー

『ちびママちゃん 完全版 2』は、2015年6月中旬に出た。その奥付には以下の様な一文がある。書籍の特徴を説明するため、そのまま引用させて頂こう。

「本書は、1977・78年に秋田書店より刊行された『ちびママちゃん』(全2巻)を底本に、新たに単行本未収録作品7編、その他の単行本に掲載された4編の計11編を加えて再編集し、新装版として出版するものです。」

 巻末には佐野邦彦(奥付によれば、この単行本の編集・企画協力を担当)が解説を2ページ書き、諸事情の説明と、作品の分析をおこなっている。

 で、2巻めに収録されている作品題名は以下のとおり。

・やよいの婦警さん
・やよいの花屋さん
・古本屋開業
・農場アルバイト
・モデルはつらい
・正義のガードマン
・スケートツアー
*きょうだい仲良くアルバイト
・高校五年生
・お兄ちゃんは天才
・ダイコン畑
・こいのぼり
*先生が親がわり!?
*海はまねくよ
・兄貴は二枚目!?
・お兄ちゃん託児所
*父帰る
*貧乏よさらば

 上記のうち、単行本初収録作品となるのは、頭に「*」をつけた5編。ここでは、これら5編のあらすじを紹介しようと思う(他の回については旧サイトのあらすじ紹介を参照されたい)。

しおり(表)


 なお、1・2巻の両方を版元(復刊ドットコム)で予約購入した場合には、特典として「しおり」が付いた。

しおり(裏)

画像がそれなのだが、裏面には新作、4コマの『ちびママちゃん』が発表されている。

きょうだい仲良くアルバイト

きょうだい仲良くアルバイト

(月刊少年チャンピオン 1977年2月号)

 やよいが学校から早退し帰宅した。「カゼひいたみたいだから」とのこと。しかしバイトへ行かねばならず、寝てもいられない。「ぼくたち三人こまった時はお互い力を合わせて つよく生きてゆこうじゃないか」と真二は言い出して……。

先生が親がわり!?

先生が親がわり!?


(月刊少年チャンピオン 1977年7月号)

 やよいは高校一年生となった。学校は真二といっしょである。かくて二人で登校しようとしたら、さびしいのだろう、弟の五郎がついてきてしまう。「しょうがないから連れて行きましょ」と、やよいは決心するのだが。

海はまねくよ!

海はまねくよ


(月刊少年チャンピオン 1977年8月号)

 夏が来た。やよいたちは海へ行く事を願うも、カネなど無い。真二は競馬で当てようと試み、大もうけできた。が、当たったのは五郎に買ってやった馬券のほうだったので……。

父帰る

父帰る

(月刊少年チャンピオン 1977年11月号)

 なんだかんだの一日が終わり、やよいたちは三人そろって帰宅した。すると無人のはずの家には電気がついている。「もしや」と思って中に入ると、そこには、行方知れずになっていた父の後姿があった。

貧乏よさらば

貧乏よさらば

(月刊少年チャンピオン 1977年12月号)

 真二が食事めあてに、やよいのお見合いを引き受けた。それは良縁だったのだが、やよいは貧しい画家の、絵のモデルをしており……。

*これが『ちびママちゃん』の最終回。美少女が主人公でありながらギャグマンガ、というのは当時、珍しかったのではないか? 同時期に発表された他の吾妻マンガといささか異なるのは、エロティックな要素がほぼ皆無なこと。「清純派」なんて言葉がこの頃にはあったのだけれど、真面目でおとなしいヒロイン・やよいには、その称号がぴったり当てはまるだろう……。


 くどいかも知れないけれど、これは貴重な本である。『ちびママちゃん』の全話を収録してある、というのは、現在までのところ、これが最初にして唯一の図書なのだ。
 すでに書き散らしたとおり、もう30年以上が過ぎた連載当時の書籍や雑誌を自力で収集しようと試みるのは成功の確率からみて現実的ではないと思う。もしも関心がおありなら、簡単に買えるうちに入手しておく事をお勧めしたい。