書籍の奥付けに「2019年9月26日 初版発行」とあるが、実際にはそれより1週間ほど早く世に出ている。
コシオビには予告があって、2019年12月 に『ななこSOS 完全版』が全3巻で発売開始するらしい。
版元の復刊ドットコムサイトで購入した場合は特典として大型ピンナップがもらえた(およそ 516 × 360 mm)。
版元サイトに記されている説明によれば、これは、「コミコミ86年2月号、5月号カレンダーのイラストを用いた」ものであるらしく、だとすると時期的には『ななこ&ひでおのイラストーリー』が発表された頃であるようだ。マンガ雑誌『月刊コミコミ』では、1984年に『幕の内デスマッチ!!』が連載されていたという経緯がある。
さて、この書籍『不条理日記 完全版』に収録されている作品群は以下の通り。題名に下線を引いたものは既に旧サイトで内容を紹介している(リンク先をお読みください)ため、ここでは説明を割愛。
・d'ebris
(イラスト、2012/08/21の作品であるらしく、書籍のカバーを外すと現れる。たぶん単行本初収録。題名の"d'ebris"は「結石」「残骸(ざんがい)」といった意味のようで、じっくり見るとさまざまな生物や無機物が一緒くたになっている細部が分かる。左を向いている人物の横顔にも見えるような、そうでないような……?)
・分解された女
(イラスト、2005/12/06の作品らしい。たぶん単行本初収録。裸婦が立っているのだけれど、右側、地面に落ちたその影(?)は人間のそれではなくて、奇妙な生物たちの複合体になっている。女性と見えるけれど、実は人間ではないのだろうか? 童話『ブレーメンの音楽隊』を裏返しにしたような感じがするけれど……はて?)
・滝と少女
(イラスト、2012/08/25の作品らしい。たぶん単行本初収録。修学旅行のスナップ写真の片隅をクローズアップしたみたいな構図なのだが、背景の滝の中に、生物だか何だか良く分からない何かの姿がぼんやりと見える。全体的に不鮮明な色調のせいもあってか、奇妙な不安を共有させられる絵だ。少女は自分の背後にある「何か」に、気づいているのだろうか?)
・不条理日記 立志篇
・不条理日記 しっぷーどとー篇
・不条理日記 回転篇
・不条理日記 帰還篇
・不条理日記 永遠篇
・不条理日記 転生篇
・不条理日記 SF大会篇
・恐いものいろいろ
・不条理日記93…… あとがきにかえて
・不条理日記2006
・著者解題「不条理日記」
(3ページにわたって、『不条理日記』シリーズの各作品ごとに、その執筆当時の裏事情などが語られている。)
・卵と亀
(イラスト、2010/05/27の作品。たぶん単行本初収録。卵が、何の卵なのかは、知るすべも無い。亀のようなのは、生物なのか、そうでないのか?)
・うじわく男たちのホッケ定食
・銀河タクシー69
・愛の♡コスモ・アミタイツ・ゾーン
・バルバラ異聞
(ハイパームック キャラクターランド Vol.9 2016/11/1 付録読本「シンゴジラとは何か?」)
単行本初収録。映画『シン・ゴジラ』では歴代ゴジラ映画の定石と異なり、ゴジラが時間経過とともに姿形を変化させてゆく設定になっていたけれど、ここでは「さとみちゃん」もまた、変化するのだった……。
・狂乱星雲記
(注:『病院』のカラー版は、たぶん単行本初収録)
・どーでもいんなーすぺーす
・ひこばえ
(イラスト、2012/08/22の作品らしい、たぶん単行本初収録。樹木の枝に実がなるのではなく、実から枝が生じている。実ではなくて、これが幹なんだろうか? そして根(と見える何か)も伸びているのだが……?)
・せーしゅんさんか 武蔵野荘のころ
・こうして私はSFした
・こうして私は漫画家した
・こうして私はキャラクターした
・こうして私はメジャーしそこなった
・都立家政の長い午後
・吾妻ひでおのみたされた生活
・ダーティしでおの大冒険
・リアリズム日記
・普通の日記
・陽はまた昇る
・なさけない日々
・ひでお日記
(注:当時まだ幼かった御息女を、或るやりとりで泣かせてしまった記述は、収録されていない。理由は不明。)
・著者解題
(3ページにわたって、各作品ごとに、執筆当時の裏事情などが語られている。)
(描き下ろし作品)
「2019.8.1」の日付が記されている。「〇月×日 クレイマンに取り込まれてしまったので」……に始まり、何とも不可思議な日々が語られる。
あとがき
(近況と、これからの計画について発言がある。)
『不条理日記』が執筆されたいきさつについては、書籍『失踪日記』p.143『街の14』に言及がある。それによれば、雑誌『奇想天外』の編集者から「『脱走と追跡のサンバ』みたいなのを」という要望があったらしい。
作者はこれで苦しみ、「締切を3回くらい延ばしてもらうがアイデア出ない」まま執筆を強行して、アシスタント(似顔絵から推すに「みぞろぎ・こう」さん)が、「こんなわけの判らない漫画描いていいんですか?」と心配したそうだ。それほど、産み出された結果が異形なものだったという事なのだろうと思える。
とはいえ、徹底的に読者対象を絞り込んだ戦略は成功し、これが後日、SFマニアから高い評価を受け、作者の漫画家人生における重要な里程標にまでなったようである。さんざん苦しんで熟成されたものが、追い詰められた土壇場で突然変異を起こし、それが幸いしたという事であろうか?
では、そもそも、その筒井康隆による『脱走と追跡のサンバ』というのは、いったいどんな作品なのやら。SF小説マニアは全員がとうに読了しており御存知なのだろうけれど、一応「あらすじ」を、以下、参考までに強いてまとめてみよう。
(画像は1979年の新潮社版)
ひと晩中眠れなかったせいで疲れている「おれ」。そうしたことは、以前にはなかった筈(はず)なのに。情報による呪縛(じゅばく)、時間による束縛、空間による圧迫、そんなものには縁がなかったのに。ここは、おれが以前いたところではない世界である。その境界線を越えたのがいつだったか、はっきりせず、断定できない。それがおれの弱味なのだ。とにかく正子といっしょにボートに乗った時も、その心あたりのひとつなのだが。
一見、全て理にかなっていると思える論理的な記述が積み重ねられていくけれど、見るのも、聞くのも、起きるのも、奇妙な事ばかり。いくら考えても駄目(だめ)だとわかったとき、おれは決意した。
「脱走してやるぞ!」と。
やがておれは尾行者がいるのに気づく。しかし誰がそれを命じたのか? 事の真相は一切わからぬままおれが行動すると、尾行者はおれの先回りをたくらみ、ついには立場が逆転したみたいになる。そして……。
『脱走と追跡のサンバ』は雑誌『SFマガジン』で1970年10月号から1971年10月号まで連載された長編小説だ。