ワンダー・AZUMA HIDEO・ランド

書籍の表紙

(復刊ドットコム 2015年2月20日 初版発行)

 これまで単行本未収録であった作品や、収録された単行本が絶版となって久しい作品など、現在では読むのが極めて困難(あるいは不可能)であろう作品ばかりを集めてある(上の画像は、書籍カバーの表側)。収録されている作品は以下のとおり(書籍の目次から転記)。

 メタモルフォーゼ
 吾妻ひでお版 眠れぬ夜のために
 佐野邦彦氏への私信イラスト
 ひでおチェーン・めるへんキャバレー
 ひでおチェーン・なんやわからんキャバレー
 吾妻ひでおの幻魔大戦 古代編
 吾妻ひでおの幻魔大戦 未来編
 原稿料1万円のマンガ。
 多目的せーせーかつ入門
 多目的せーせーかつ入門(ボツ版)
 「鏡」表紙用イラスト
 ホームレスの心得その1
 ホシヅル(星鶴)〔採用版/ボツ版〕
 日ヘンの美子ちゃん 官能編
 赤ずきん・いん・わんだあらんど
 真乃呼さんからお手紙ついた
 吾妻ひでお劇場
 冬ねえ
 MERU
 蛭児神建氏のこと
 沖君のこと
 同人少女JB2巻への特別寄稿
 プランコくん
 トラウマがゆく!
 でんじゃらすももちゃん
 夢みる玉石
 私とスーパーマン
 不条理日記'93……あとがきにかえて
 題名募集中!
 あとがき
 私と現実
 断酒会と私
 古本屋さんと私
 ロボコラム大特集
 失踪日記ー落ち穂拾いー
 お嬢様の日々
 暗い読書
 ストライカーあじまの格闘日記
 まだSFじゃない
 スリーパーダン
 帰郷
 墓標
 僕と彼女の微妙な関係
 ○月○日舟に乗る
 とり・みきの奇妙な論理
 21年ぶりのあとがき
 新井素子官能写真集
 いしかわじゅん七つの才能
 解説御漫画
 これが実態だ!!全解剖いしかわじゅん
 和平前夜/ほのぼの
 こんな青山裕企はいやだ
 これが純愛だ!
 海へ
 episode-0 蟹娘
 ホームページ日記
 ひでお絵日記はしんどいのでしばらく休みます
 産直アズママガジン増刊「ふらふらひでお絵日記」通販はじめました
 基地がいっぱい
 My Animation 原画コレクション
 「逃亡日記」用ポップ
 阿素湖KK創業にむけ吾妻先生よりいただいた御言葉
 変態の方程式

書籍のうしろ側


 書籍カバーの後ろ側(上の画像がそれ)、そのコシオビには「全編単行本未収録・未発表のウルトラレア作品集がついに登場!」とある。このうたい文句にウソは無く殆ど全てがそうであり(この点のこまかい話は、以下にその都度しるそう)、きわめて稀な、と言うより、そもそも、類書がこれまでに出版された前例は(一般の書店を経由して頒布(はんぷ)されるもの、としては)たぶん無い、驚嘆に値するだろう書籍ではある。
 ここでは、旧サイトでも扱えなかった作品について、順に、ちょっとずつ勝手に紹介してゆこうと思う。
 しかし、その前に、本書を版元たる復刊ドットコムで購入した場合の特典として付いてくる(ただし部数には限りがあるらしい)、非売品の小冊子について紹介させていただこう。以下、画像はわざと不鮮明にしてあります。


特典小冊子の表紙と裏表紙

 上の画像は、その小冊子の表と裏を示す。サイズはA5(210×148mm)で、8ページから成り、灰色に銀が入ったようなインクで印刷されている。絵には「ドール」の題があって、初出は『JUNE マガジン・マガジン』、キャプションによれば「ファンの人から頂いた人形をモデルに執筆」したものであるらしい。(ちなみにこれら2葉の絵は単行本『Hideo Collection 2 十月の空』のp.120とp.119にも使われているのだが、今回は背景を黒ベタに変更したようだ。画像左側の少女では、背中にある左右の翼の間が白抜きのままであるが、効果を狙って意図的に残したのか、印刷前の加工時の見落としなのか不明。)

時事放談


 で、開くと説明がある。「漫画の手帖・VANDA アーカイブス ※編者佐野邦彦氏の依頼で、当時吾妻ひでお先生がミニコミ誌「漫画の手帖」と「VANDA」に寄せた作品を集めました。」とのこと。大手商業誌とは異なり、発行部数の限られているメディアで発表されたものであるだけに貴重だろう。収録されているインタビュー『時事放談』(初出は「漫画の手帖 21号 1985」とのこと)では、手塚治虫が『プライム・ローズ』を執筆したいきさつが実は……といった当時の事情があれこれ語られており大変興味深い。欄外に、このインタビューは、吾妻ひでおが失踪する直前になされていたらしい説明が一言ある。だが単行本『失踪日記』の「イントロダクション」によると、タバコを買ってくると外出してそのまま雲隠れしたのは「89年11月」(p.005)。このへん、4年間のズレにちょっと謎があるのだが、手元に初出誌の現物が無く、残念ながら正確な事情はわからない。

 この後、2ページのパロディマンガ『めぞんギガント』が載っているけれど、旧サイトで紹介ずみなので略。

 そして次に収録されているのは……。


きりがくれ

 (VANDA Vol.2 1991年4月)
 
 ひとりの忍者が歩いてゆく。するとその前に現れた4人の忍者が立ちふさがり、
「まて」「ふところの秘伝書をわたしてもらおうか」
と要求する。はたして……。

*これは石森章太郎の著作である『続・マンガ家入門』(1966年8月15日 初版発行)に収録された、32ページからなる忍者マンガ『霧隠』のパロディ。最初のコマで主人公の髪型やポーズを見れば、知っている人にはたぶんすぐ分かるのだが、知らない人には全然わからないだろう……。この「分かる人が見ればニヤリとする」ようなやり方は、吾妻マンガの特徴のひとつかと思う。こうした、読者を選ぶかのような段階を経て、選ばれたと感じる読み手は、作者たる吾妻ひでおに仲間意識のようなものを持ち、そのつながりから一種の信者的なファンになってゆくのかも知れない(?)。
 では、そうした独特の作風である吾妻マンガの、なかでも貴重な、単行本初収録となるものばかりを集めた『ワンダー・AZUMA HIDEO・ランド』の中を見てゆこう。



メタモルフォーゼ 変身


(少年/少女SFマンガ競作大全集 Part14 1982年4月)

 発表された時の題名は『変身』だったようだ。一度、白黒で単行本『ぶつぶつ冒険記』に再録されているのだが、今回はカラーなので、ありがたい。ちんちくりんな可愛らしい絵柄、有名TVアニメ(『うる星やつら』)のパロディなど、作者絶好調であった(?)時期の特色がうかがえる一品と言うべきか。


吾妻ひでお版眠れぬ夜のために


(マンガ奇想天外臨時増刊号 パロディ・マンガ大全集 1981年12月25日)

 書き文字の題名は『吾妻ひでお版 眠れぬ夜のために』となっている。が、初出時の題名は「吾妻ひでおのアニメ・ワールド」だったらしい。当時に日本のテレビで放送されていた有名アニメ番組に登場する美少女たちが、別の番組の登場人物の服を着て出演(アニメだけでなく、米国のマンガ(『バンピレラ』)や特撮(『ワンダーウーマン』)までが混在している)。初出時とはコラージュに変更があるようだ
 発表された1981年には、まだ「コスプレ(仮装のこと)」という俗語が存在しなかったはずで、それはすなわち、仮装して楽しむ営為の流行や定着は(行われていなかったワケではないが、それ自体が独立した趣味として認識されるような状況は)まだ起きていなかった事を意味するのではないかと思う。そのへんから考えると、先駆的な遊び心のあるイラストレーションかも知れない(?)。
 ここには、「複数の物語世界がごちゃ混ぜになっている」という混沌(こんとん)と、「仮装している彼女たちから見て、他番組の物語世界は『別の現実』なのか、それとも彼女たちにとっても『(現実ではない)物語世界』なのかが不明」という混沌があるように思えるが、どうなのだろう?
 たぶん『眠れぬ夜のために』というのはカール・ヒルティの著作のもじりなのだろうが、「日本のアニメは深夜が主な放送時間帯となって、児童ではなく青少年の空想や妄想をあおる物に発展変化した」という寓意……があるのかどうか???

佐野邦彦氏への私信イラスト

佐野邦彦氏への私信イラスト

(1982)

 詳細不明だが、原作のアニメ『未来少年コナン』に登場する少女「ラナ」と比べると、髪型などに違いがある。

ひでおチェーン・めるへんキャバレー
ひでおチェーン・なんやわからんキャバレー

(漫画アクション増刊スーパーフィクション 1980年8月2日)

旧サイトで紹介済みなので略。悪酔いした時の悪夢みたいなイカれた光景が凄い……。

吾妻ひでおの幻魔大戦 古代編
吾妻ひでおの幻魔大戦 未来編

(リュウVol.4 1980年2月)

旧サイトで紹介済みなので略。ただし今回は、フキダシなどが製版指定で着色されておらず、原画の複製として、よりすぐれた状態で収録されている(本書のp.205に「「吾妻ひでおの幻魔大戦」等はモノクロで単行本に収録されている」とあるのは、誤記ではないかと思う)。


原稿料1万円のマンガ


(モノマガジン 掲載年不明)

 4コマ漫画である。が、肝心の4コマ目は良く見えず、その結末が分からない。はて、どういう事か? と思えば、何やら説明文がそえられている。そこにはいったい何が書かれているかというと……。

*こういうギャグの方法があろうとは思わなんだ。まいった。

多目的せーせーかつ入門

多目的せーせーかつ入門

(BOMB! 1979年10月)

旧サイトで紹介済みなので略。ただし今回は2色原稿をカラーで収録。初出時には「あじましでおの なんでも相談室」と併記されていたらしい。

多目的せーせーかつ入門

(ぱふ 1980年3月)

旧サイトで紹介済みなので略。ただし、発表後に再録がおこなわれた書籍(というかCD-ROM)は絶版らしいので、今回の収録はとても貴重だろう。
 ついでに言うと、その『吾妻ひでお CD-ROM WORLD』(アスキー 1995年12月25日)はWindows7 でもプログラム本体は一応動作するのだが、「エクスプローラ」で開いて右クリックし、「互換性のトラブルシューティング」をクリックして実行、それから「プログラムの互換性」へ進むといった手順を要求され、大変である。発売された当時、このCD-ROMが意欲的なものであった事は確かだろう。とはいえ、電源もWindowsマシンも必要とせず読める本書には、そうした動作環境の桎梏(しっこく)が無い点で、今となっては簡便なようだ。

「鏡」表紙用イラスト

「鏡」表紙用イラスト

(「鏡」第9号 1983年)

*「鏡」というのは VAMPIRE CLUB の同人誌であるらしいのだけれど、その詳細があまりよくわからない。現在までに判明している事柄については、旧サイトの記事を参照されたい。


ホームレスの心得 その1

(読売新聞 2005年3月30日)

*題名に「その1」なんぞと書いてあるけれど、これがクセモノで、「その2」や「その3」は、僕の知るところが正しければ存在しない。


ホシヅル

(掲載媒体不明 1999年)

*ホシヅルというのはSF作家の星新一が、サインのおりによく描いていた架空生物であるらしい。



日ヘンの美子ちゃん

(シベール Vol.0 予告&原稿募集号 1978年?)

*当時に少女マンガの雑誌をめくれば、ほとんど必ず載っていた、或る通信教育のCMマンガのパロディ。わざわざ「よしこ」とルビがふってはあるものの、いくら「別人です」と強弁(きょうべん)しようが、商業誌だったら絶対にボツをくらったろうと思う。掲載された「シベール Vol.0 予告&原稿募集号」は、その発行部数がたったの50冊であったらしいので、かように物騒な冗談を実行できたのだろう……。なお、題名に「官能編」とあるが、他に同じ主人公が登場する「何々編」といったシリーズは存在しないようだ。

赤ずきん いん わんだあらんど

旧サイトで紹介済みなので略。今回の収録にあたっては、描き文字に2箇所ほど修正が入った(塗りつぶされた)ようだ。


真乃呼さんからお手紙ついた

(鏡 第8号 1982年1月)

 まだ幼い長女(だろう)が郵便物を持ってきてくれた。見れば差出人の名前は「まのこ」とある。内容は、会費と原稿の催促であるようだが……。8コマで描かれる、奇妙な悪夢(?)。


吾妻ひでお劇場

(鏡 第7号 1981年8月15日)

 ディズニー映画『眠れる森の美女』のパロディか。ウサギは美女を見、美女はウサギを見て、それぞれが腹の底では、ひどい空想をしている。珍妙なのは2枚目の絵で、スカートの下から、ズボンと靴が見えている(もしかするとこの美女は、男が変装しているのかも知れない?)。


冬ねえ

(鏡 第10号 1984年12月20日)

*若い女が木の枝を見上げると、蝶のサナギみたいな何かがくっついている。そこから出てこようとしているのは、なぜか小さなペンギンなのだった。何とも妙ちきりんな光景……。


MERU

(『m4.875』(しっぽ猫)1995年12月30日)

*やや大きな猫が、捨てられたらしい子猫を助ける。そこで授けられる作戦は……。オチが絶妙。酷似した題名の猫マンガ『MELU』が存在する。が、こちらは2本足で歩いている等、現実離れした内容だ。

蛭児神建氏のこと

旧サイトで紹介済みなので略。


沖君のこと

旧サイトで紹介済みなので略。


同人少女JB2巻への特別寄稿

(アクション・コミックス 2012年12月27日)

*一本木蛮の単行本に収録されたものらしい。


プランコくん

(未発表 1977年)

*詳細不明。連載された『プランコ君』は主人公が社会人のようなのだが、こちらに登場している彼は学生であるという点が異なる。だからかどうか、題名の「君(くん)」が平仮名になっている。ひょっとしてこちらが先に執筆されたパイロット版(試作)なのだろうか?


トラウマがゆく!

(未発表 1978年)

*詳細不明。やはり連載されたものとは異なり、主人公が学生。


でんじゃらすももちゃん

*「モノ・マガジン」に連載された4コマ漫画(1993年4月2日から1996年8月2日)。このシリーズは一度、『吾妻ひでおの不自由帖』(まんだらけ 1999年12月18日、発行部数は1000冊であったらしい)に収録されたが、そのさい未収録であったものが今回収録されたようだ。画像は、公式サイトで「おまけ」として公開された時のもの(題名が「なんつーか…」になっている)。


夢みる玉石

(『誰も知らない人気アニメ&マンガの謎』(コアコミックス):2009年11月30日)

「漫画家になりたい? 漫画が好きならプロになるのはお勧めしないなー」と語り始める作者。その論拠(ろんきょ)は、自身の、長い年月にわたる壮絶な経験にあって……。鬼気迫る内容の自伝マンガ。初出ではサブタイトル(「漫画家ドナドナ物語」)が併記されていたようだ。「ドナドナ」というのは、歌の題名から来ているものと思われる(?)。

*この作品の題名はスタージョンのSF小説"The Dreaming Jewels(夢見る宝石)"からきている事を、
倉田わたる氏からご教示賜りました。
 「夢見る宝石」ではスタージョンそのままなので、ひねって「玉石」にしたようです。
 ……し、しかし、そんなの、SF小説に造詣(ぞうけい)の深い人しか見抜けないよ~!!
 ……そういう人たちにこそ、心からの助言を与えたかったのかも知れないけど……。


私とスーパーマン

(月刊スーパーマン 1979年7月)

*初出時には「幻覚妄想スーパーひでお」という副題がついており、エッセイに添えられた挿絵、といったふうなものであったらしい。作者の胸の文字が「ひ(=ひでお)」なのはともかく、後ろから飛んでくる男の胸に「へ」(?)の文字があるのはなぜなのやら? 金魚や小鳥や猫までがマントをつけていて、もうむちゃくちゃ(誰も彼もが「超人」では、「超」が「普通」になってしまい、何にもありがたみが無いではないか?!)。

不条理日記’93……あとがきにかえて

旧サイトで紹介済みなので略。


題名募集中!

(SFマガジン 1989年6月)

*リレーエッセイの連載で毎回その挿絵を描いていた作者が、最終回で「トリ」をつとめる事になって、執筆されたマンガであるらしい。二日酔いの朝には何を食べるのが最善か、自身の経験から指南している。

あとがき

単行本『美美&亜衣』(大都社)の巻末で発表されたものだが、旧サイトで紹介済みなので略。


私と現実

*「第16回“癒し”としての自己表現展」(2009年6月)の、カタログに掲載された作品であるらしい。「自分だけのための表現・創造もあっていいんだと思いはじめたこの頃です」といった言葉が記されている。


断酒会と私

(こぶし 2008年8月)

*「こぶし」というのは断酒会の会報だろうか? 読者である会員に「あ、あの人か」と分かるよう、実名(吾妻日出夫)で発表されているのではないか、と思われる。


古本屋さんと私

(大阪古書月報 第283号、2005年5月20日)

「新人の頃は出版社へ原稿を届けた帰り、よく古書店めぐりをした」で始まる、作者の回想と、将来の夢(ホントかねぇ?)

*東京だと大手出版社は、千代田区の神田(かんだ)にその多くが集まっている(デビュー直後に吾妻ひでおが少年マンガの連載を数多く持った出版社・秋田書店も、そのすぐそば、同じ千代田区の飯田橋に存在)。で、この神田には複数の大学があり、それゆえなのか昔から古書店も多く、とりわけ神保町(じんぼうちょう)には有名な古本屋街がある。秋田書店からは電車でおよそ1駅ぶん、若者の足であれば歩いて移動できる距離なので、当時の作者はそんな事を慣わしにしていたのだろうか。


ロボコラム大特集

(小説すばる 2005年5月)

*アンケートに答える形で描かれたものであるらしい。「印象に残るロボットを3人まであげ」る、という趣旨だったようだ。
 しかし主人公ではないロボットを選んでいるためか、主人公も一応描かれており、絵としては5体のロボットが登場。『鉄人28号』と『鉄腕アトム』からそれぞれ2体ずつ、そして「宇宙家族ロビンソンに出てたロビー(?)」の姿がある。
 ……たぶん初出の当時にあれこれ言われたろうと思うが、実写映画から唯一選ばれたロボットの記述がアヤシゲだ。
 『宇宙家族ロビンソン』に(毎回)登場していたのは、「ロビー」ではなく、「フライデー」のはずである。
 両方ともプラモデルを買って作って所持しているので、これは画像で説明しよう(させてくれ!)。

フライデー

 電気掃除機みたいな手足を持つ型が「フライデー」。米国TVドラマ『宇宙家族ロビンソン』("Lost in Space"、1965年~1968年)に毎回登場していた。「フライデー」は日本語吹替版での名前で、英語の原版だと単に「ロボット(The Robot)」と呼ばれているようだ。

ロビー

 黒ゴマ団子みたいな脚を持つ型が「ロビー(Robby the Robot)」。米国映画『禁断の惑星』("Forbidden PLanet"、1956年)に登場する。吾妻ひでおがここで描いているロボットは、こちらに似ているように思える。
 厄介な事にこの「ロビー」は、『宇宙家族ロビンソン』にも2回出演した史実があり("War of the Robots"と"Condemned of Space")、前者は日本でも放送されたはずなので、もしかすると吾妻ひでおは、その記憶がもとで混同を起こし、名前を間違えているのかも知れない(?)。


落ち穂拾い1

(お宝ワイドショー 1999年8月~2002年5月)

*吾妻マンガの中でもとりわけ広く世に知られた『失踪日記』は、もともと『街を歩く』という題名で隔月刊の雑誌に連載されていた作品であり、それが著者自身の手によって再編集・加筆されて出版に至ったものであるようだ。そのいきさつは、自伝的内幕マンガ『夢みる玉石』にも言及がある。

落ち穂拾い2

 ここに収録された『失踪日記 -落ち穂拾い-』は、単行本『失踪日記』ではカットされた部分を再編集したものであるらしい。

落ち穂拾い3

 内容は、既に退院して自宅から「断酒会」に通う日々の出来事をおもに描いてある。


お嬢さまの日々

(ハムスター天国 1 2000年5月)

*題名にある「お嬢様」とは、作者が当時に飼っていた、メスのハムスターのことのようだ。愛くるしい珍生物と作者との微笑ましい日常が記されている。


暗い読書

(本とつきあう本 1986年11月)

*自分が良く知っている世界の出来事は、それが他者の営為であっても、楽屋裏の事情がいろいろ透けて見える。
 だからか、「自分が漫画家のくせに私は漫画を読むのが好きだ。他人の描いた漫画程面白いものはない。」という一文で始まるのだが、添えられているイラストによれば、「くくく こいつ もう ネタねーんでやんの」とか見抜いてはジメジメ喜ぶという、暗さに満ち満ちた読書なのだった。そういう著者が最後に行き着いて発見した或る読み物とは……?!


ストライカーあじまの格闘日記

(別冊BUBKA2月号増刊 本当にあった!? 有名人の話 Vol.3 2004年2月1日)

*作者は熱心な格闘技ファンであるらしく、デビュー直後から現在まで、そういう話題をあちこちでちょこっと描いている。
 これはその趣味限定かつ丸出しで、知識が無い読者にはまるっきり書いてある事の意味が分からなさそうな怪作。


まだSFじゃない

(SFマガジン 1995年5月号~1997年1月号)

*SF作家である森下一仁が『SFマガジン』に連載したエッセイ(「思考する物語 -SFの原理」)のために描かれたカットを集めてあるらしい。
 が、トビラ(?)に登場しているのは何故かTVアニメの登場人物ばかり。パーティ(?)で中央にいる1人と1匹は『美少女戦士セーラームーン』および『ノンタンといっしょ』が元ネタらしい。どれも微妙なアレンジを加えてあるようなのだが(例えば本物のノンタンは白猫で、耳に模様が無い)、良く見ると左後方には『女王陛下のプティ アンジェ』らしき人物までが紛れ込んでいる。


スリーパーダン

(SFマガジン 1987年1月 臨時増刊号)

*ロバート・A・ハインラインのSF小説『夏への扉』が元ネタであるらしいのだが、初出時とは異なる順序で収録されているらしい(2ページ目だったものが4ページ目になっているそうだ)。
 映画『ハエ男の恐怖』(原題は"The Fly"、 1958年の作品で、これには擬似SF小説(?)の原作が存在する)のパロディが混入しているのではと思われるが、どうなのやら?


帰郷

旧サイトで紹介済みなので略。


墓標

旧サイトで紹介済みなので略。


僕と彼女の微妙な関係

(SFマガジン 2010年2月号)

 歩道を学生たちが歩いている。登校する途中だろうか。そこへ空中に、球形の大きな物体が出現した。中には拳銃のような物を構えた少女がいる。ぼんやり歩いていた少年に向かって彼女は言う、
「あなた砂糖徹夜ね」
そうだけど、と返答するや彼女は発砲してきた。そして言う、
「あなたは世界を滅ぼすことになる男。私は未来から世界を救うためあなたを殺しに来たのよ」……。

*あまりにも使い古されたような出だしなのだけれど、この後の展開が珍妙で、ブラックユーモアも含んでいるのが吾妻マンガらしいと言うべきか。何が起きても全く反応していないらしい群集も不可思議なら、地上にいる黒い鳥(?)も何やら奇妙ではある……。


○月○日 舟に乗る

*これは出版物に掲載された作品ではなくて、「第20回 “癒し”としての自己表現展」(2013年10月10日 ~ 14日開催)に出展されたものらしい。寓意を含んでいるような幻想の中で、作者は「美」だけが信じられると感じているのだろうか……?


とり・みきの奇妙な論理

(るんるんカンパニー VOL.4 2006年1月31日)

*なぜか題名が記されないまま収録されているようだ。「とり・みき」の活躍してきた経歴を紹介するとともに、その作劇方法の分析を試み、解説している。そしてちょこっと自説が語られるのだが、とにかく、作者の「ギャグ」に対する執念が強く出た解説マンガになっていると思う。

21年ぶりのあとがき

旧サイトで紹介済みなので略。


新井素子官能写真集

(綺譚 第5号 1983年6月20日)

*この題名は吾妻ひでおによる同人誌『ミャアちゃん官能写真集』のもじりか。
 「つるのおれない吾じましでお!」とあるが、これは『ひでおと素子の愛の交換日記』で新井素子が「いつでもどこでもすぐ折れる楽な千羽鶴制作法」という文を書いていたのに呼応しているものと思われる。
 左側のページの絵には「わーぷろ」が描かれている。これは当時まだパソコンが一般家庭に普及しておらず、代わりに「ワープロ専用機」というものが広く用いられていたからだ。(この「ワープロ専用機」というのはパソコンの一種なのだが、入っているソフトウェアはワードプロセッサのみで、かつプリンタが合体している構造なのが普通だった。単機能の家電製品あるいは文房具としての使いやすさがあったため、作成したデータの互換性などに限界はあったが重宝がられていたようである。)


いしかわじゅん 七つの才能

(テクノシャポー 1982年10月)

*この後「いしかわじゅん」についてのマンガが4編、収録されている。
 吾妻ひでおが『スクラップ学園』を連載していた頃、作中にちょこっと、からかうような台詞を書いた。これに対し、ネタにされた「いしかわじゅん」が自作で、報復っぽい書き込みを欄外に記した。このやりとりに気づいた或るマンガ解説雑誌が記事にし、それ以後、どうも二人は仲が悪いらしい、という風評が広まった(?)。かくて、事の真相はさておき、かような、口喧嘩ふう(?)マンガが幾つか描かれたみたいなのだが……。


解説御漫画

(ガールフレンズ 1987年1月)


これが実態だ!! 全解剖いしかわじゅん

(ふゅーじょんぷろだくと 1981年8月)


和平前後

(マンガ奇想天外 No.8 1981年11月)



(はあどしゅ~る 第5号 1981年7月)

*何も解説が無く、正確なところは分からないが、ここに描かれているサングラスにヒゲの男性は、雑誌『奇想天外』編集者の「オグチ」氏ではないかと思われる。
 掲載された「はあど・しゅ~る新聞」というのは、ファンの発行していた出版物であるらしい。当時のファンクラブについては、旧サイトで少し書いたとおりだが、残念ながら僕の手許には殆ど資料が無い。


こんな青山裕企はいやだ

*これは出版物に掲載された作品ではなく、催し(「吾妻ひでお×青山裕企トークイベント ~『さまよえる成年のための吾妻ひでお』(河出書房新社)刊行記念~」)の会場で配布された、1枚ものマンガであるらしい。


これが純愛だ!

(NEWパンチザウルス 1989年6月20日)

*美しくも哀しい……というか情けない、シニカルな「純愛」論(?)。情けなさ大爆発のオチは、いかにも吾妻マンガらしいと言うべきか。「頭の中でどんどん理想化する」といったナレーションはしかし、冷静な分析かも知れない……?


海へ…

(漫画エロチスト増刊号 Crescent No.2 1988年10月)

 海水浴シーズンの過ぎた後なのか、独りの青年が砂浜に腰を下ろし海を見つめている。
「…… 今年の夏も いいこと なしだったなァ…」
 そうひとりごちて砂をいじくっていると、貝か何かを掘り当てた。食べてみたら、それは食べられた。やがて彼の眼前を小さなカニが横切る。そして……。


episode-0 蟹娘

(ヴィーパラ 2005年6月22日)

 新婚3ヶ月めの家へ、夫が毛蟹を買って帰宅する。新妻の優子はとにかく毛蟹が大好きなようだ。
「ところで君の初体験っていつ? 誰と?どこで?」
 夫から聞かれて優子は考える。
「あれ? そういえば毛蟹と関係あったような いつだっけ…」
 そして回想するのだったが……。

最新仕事情報

最新仕事情報

*このあと数点、作者の公式ホームページで公開されたマンガが収録されている。
 『便利屋みみちゃん』新連載開始の予告(2004年1月10日)などの日記ふうマンガなのだが、とりわけ貴重かと思えるのは、「2月23日 文化庁メディア芸術祭 贈呈式」と題名のあるもので、これは単行本『失踪日記』により受賞した直後に描かれたらしい回想だ。

2月23日 文化庁メディア芸術祭 贈呈式

 また、その公式ホームページ用の原稿を、ていねいに縮小した画像が2枚ある。これで見ると吾妻ひでおは現在、初めから「枠線」を引く為のガイドや目盛が印刷されている紙を使っているようだ。

「ふらふらひでお絵日記」通販

 1970年代末にはまだ、こういった、マンガの原稿用紙といったものは発売されていなかったはずで、僕の記憶が正しければ吾妻ひでおの「無気力プロ」では「ひとしめ135キロのB4上質紙」(もちろん無地で真っ白)が使われていたはずである。いつごろからこうした、専用の原稿用紙が吾妻マンガに採用されたか知る由も無いけれど、興味深い。


あなたも愛の小説家

(BOMB! 1984年10月)

*これは掲載誌にあった、「あなたも愛の小説家 パンツの穴」というコーナー(上の画像は、それのトビラ)で発表されたものらしい。創作なのか、少年時代に経験した事の回想なのか、分からない。

My Animation 原画コレクション

My Animation 原画

PAPER NIGHT 1981年)

*書籍に収録するパラパラマンガの為の原画として描かれたものであるらしい。このままだとアニメーションとして動かすには絵の枚数が足りないので、本職のアニメーターが「ナカワリ」(カットとカットの間をつなぐ絵を描くこと)を行ったのではないかと思われる。

「逃亡日記」用ポップ

「逃亡日記」用ポップ

*書籍『逃亡日記』(2007年)が新発売されたさい、店頭での販促に用いられたらしい。が……書いてある文言を見ると、「買う前にもう一度よく考えよう! つまんないかも」だの、「立ち読みでいいっすよ!」だのとあって、実にヤケクソ。いったい売ろうとしているのか、それとも妨害をしようとしているのか分からない。どんな効果があったやら……。

阿素湖KK創業にむけ吾妻先生よりいただいた御言葉

阿素湖KK創業

(阿素湖だより創刊準備号 1984年)

*「阿素湖KK」は、吾妻ひでおファンクラブである「シッポがない」の初代会長が立ち上げたサークルの名称であるようだ。 「シッポがない」は1983年のSF大会(DAICON IV)においてAZICON1を実施、そのオープニングアニメ映画を製作、上映したらしい。
 ここにある吾妻ひでおの発言によると、『やけくそ天使』の主人公・阿素湖が、髪型を替えてどこかに再登場する計画もあったらしい(?)事がうかがえる。


変態の方程式

(奇想天外 1981年5月)

*高千穂遙によるSF小説の挿絵であったようだ。トム・ゴドウィン(Tom Godwin)の『冷たい方程式』(The Cold Equations)から来ているパロディか。


<蛇足(個人的な感想)>

 たいへん貴重かつ充実した内容の書籍で、これが出版された事を本当にありがたく思う。
 が、「またか……」という落胆もおぼえた。
 デビュー作をはじめ、初期の「単行本未収録」作品がことごとく抜け落ちている。
 いつか、そういう、誰も出したことの無い書籍が出版されたらなあと願わずにはおれない。
 とはいえ、繰り返し言うけれど、この『ワンダー・AZUMA HIDEO・ランド』は、前例の無い、きわめて重要な図書になっていると思う。