漫画読本


 なぜこの雑誌をここで紹介するかというと、

「デビュー前後の吾妻ひでおに、何らかの影響を与えたのではないか?」

と考えるからである。
 何も根拠は無い。出版時期などから、そんな推理をするだけだ。あらかじめこの点、おことわりしなくてはならない。中学生の頃『漫画サンデー』(注:小学館の『少年サンデー』ではない)とかで、大人漫画や海外の一コマ漫画を愛読し影響を受けたという発言はあるのだが……(単行本『逃亡日記』 p.101~)。

 画像は昭和37年(1962年)3月号、判型は 207 × 148mm の教科書サイズで、全280ページ、定価「百円」。本誌は1954年から1970年まで発行されていたらしい。

 さすがに文春、というべきなのか、非常によくできた、内容が豊富で高密度な雑誌に仕上がっていると思う。編集についての話をしたいわけではないので詳しくは書かないが、漫画よりも文章(読み物)の比率がやや高いようで、漫画雑誌というよりは総合娯楽雑誌と考えるべきかもしれない。

 で、漫画についてだけ絞り込んで話すと、当時の大人向け漫画家の多くが執筆しており、大変豪華な内容になっている。この昭和37年3月号の目次から登場順に名前を拾うと、およそ以下の通り。

 鈴木義司・服部みちを・和田義三・改田昌直・森吉正照・杉浦幸雄・加藤芳郎・萩原賢次・西川辰美・松下井知夫・岡部冬彦・横山隆一・那須良輔・清水崑・境田昭造・塩田英二郎・小島功・出光永・小川哲男・井崎一夫・南部正太郎・久里洋二・金親堅太郎・富永一朗・佐藤六朗・緒方健二・長新太・馬場のぼる・工藤恒美・佃公彦

 そこへさらに、海外作品(ひとコマ漫画など)までが多数収録されている。つまりは当時の、国内および国外の漫画の現状を俯瞰(ふかん)するうえで、非常に得るところの多い情報源となっており、見聞を広め、センスを磨くうえで、漫画家のタマゴたちにとって無視できない定期刊行物ではなかったろうか? と思えるのだ。


 とはいえ、デビュー前後に赤貧で苦しんでいたらしい吾妻ひでおが、この雑誌を定期購読していたとは考えにくい。連載を持っていたりすればその出版社の図書室を利用することが可能になるはずだし、公共図書館でも大手から出ているこの雑誌は置いていた可能性があろうと思えるので、機会があれば読んだのではないか? と、推理する次第なのだけれど…。小島功が『S-F manga』という題で連載していたようなのだが、はたしてこれは読んでいただろうか(画像の回では架空の宇宙生物が登場している)。

 吾妻マンガのうち、日本の児童向け漫画の様式から外れており、どちらかというと大人向け漫画や海外漫画をほうふつとさせるものは、デビュー直後の初期作品や、『カオスノート』などに見られるけれど、「雀百まで踊り忘れず」という事だったのであろうか?