産直あづまマガジン5

(2016年7月発行)

判型 B5 (約 25.6×18.3cm)
全 56ページ
発行 アズママガジン社

 表紙に明記されている通り、「スクラップ学園 特集+ななこSOS」の号。

・スクラップ学園 単行本未収録作品 3本
・ 同 描き下し 1本
・ななこSOS 描き下し 1本

 以下、内容を順に紹介してゆこう。

前説

(描き下し 2016年7月)

 まずは作者の近況報告から始まっている。
 自宅の庭でカエル飼育の真っ最中だそうで、その数「約1000匹」とのこと。(注:これは公式 Twitter でも写真が何度か公開されており、フィクションではないようだ。)

 その数に僕らは驚かされ、これが全て孵化したら一体どういう事になるのだろう? と考えてしまうのだが、作者はそんな僕らの反応を先読みしてか(この演出計算が、のっけから巧妙だ)、『前説』の後半で、フィクションによる後日談を描いて見せるのだった……。

スクラップ学園 ガラクタ強化防護服(パワードスーツ)

(ドラゴンHG Vol.6 2002年11月1日号)

 青春の幸福真っただ中の主人公・ミャアちゃんは、値下げ中のハンバーガーを店で友人と食べている。
 そこへ人生のどん底真っただ中という様子の中年男性がやって来て同席。
「おねえちゃん達は気楽でいいねー おじさんなんかリストラされちゃったよ」
 そう語る彼に友人は同情し、
「おじさんの相談に乗ってあげようよ」と提案する。しかしミャアちゃんは、
「そんな弱気でどうする 気合入れろ! 家族のためならカツアゲでも銀行強盗でもして金作ってみろ!」と厳しく、おまけにプロレス技をくらわせ、彼を失神させてしまう。
 この荒療治がきっかけだろう、予想もしなかった事が起きて……。

『スクラップ学園』については旧サイトで紹介したが、それに続くエピソード。初登場から数十年間、全く歳を取らないヒロイン(これがマンガのうれしい所だ!)。これからも作者を翻弄し、僕ら読者を楽しませてくれそうである。

スクラップ学園 午後の風船

(ドラゴンHG Vol.4 2002年6月1日号)

 大きな噴水がある。その周囲では老若男女がくつろいでおり、見ればミャアちゃんの姿もそこにあるのだった。ひたすら食ってばかりの彼女は、級友である男子生徒の中島くんと一緒だ。デートのような、そうではないような2人。そこへ奇妙な男が現れた。
「ぼく ジャグラーです」
と言う彼は、変な芸(?)を見せるのだが、奇怪な人たちは彼の後にも、次々と現れる。しまいには、
「お嬢さん フーセンいらんかね」
と話しかけてくる男が来た。
「いらない」
と断るミャアちゃんだったのだが、彼は実演を始め、それが普通のフーセンではない事を見せて……。

*初出のデータから分かる通り、発表されたのはこちらが先になる。収録にあたって順序に編集が行われたようだ。
 ひたすら黙々と食事するミャアちゃんもミャアちゃんなら、ひたすら黙々と読書する中島くんも中島くんで、この二人は釣り合いの取れた似合いのカップルなのかも知れない?
 有名なマンガのキャラクターが殆ど輪郭だけでちょこっと描かれて登場したり、マニアならば見破れて、ニヤリとさせられるギャグがある。

スクラップ学園 海辺のマグリット

(ドラゴンHG Vol.5 2002年8月1日号)

 友人2人と海水浴場へ来ているミャアちゃん。しかし彼女は海に入っても食べてばかりで、泳ごうとしない。
 そんな彼女へ、正体不明の何かが襲い掛かる! が、全く動じず、その何かを試食して(!)、あっさり撃退。
 すると今度は場違いにも、サッカーのユニフォームを着た少年がボールをキックしてきた。
「いいわねー ミャアちゃんナンパされて」
と友人たちが羨ましがっていたら、彼女たちにも若い男2人が声をかけてくる。
「わあーい あたし達にもナンパよー」と喜ぶのだったが、
「でも こいつらヤドカリだぜ」とミャアちゃんが指摘する。言われてよく見てみれば、なるほど2人の若い男たちはなぜか下半身を大きな巻貝の中へ入れており……。

*夏とくれば海水浴、海とくれば若い男女の出会い、これが王道で定番だろう。ところが定石どおりの恋愛劇なんぞには絶対に展開してゆかないのが吾妻マンガ。「なぜマグリット(画家の名前)なんだ?」と不思議に感じるかも知れないが、その種明かしは……。

スクラップ学園 ラッキー・ビー

(描き下し 2014年)

 教室へ蜂が紛れ込んで来た。授業中であるらしいのに居眠りしていたミャアちゃんは、これに刺されて目を覚ます。彼女は素早く蜂をとらえるのだが、
「その蜂 ラッキー・ビーっていう珍種だよ 刺されるとささやかな幸運が訪れるんだって」
と教えられる。
 ミャアちゃんは関心を示さないが、クシャミと同時に、
「でかい鼻クソが取れた 気持ちいい~~」という事になって喜ぶ。が、それもつかの間、小テストが始まって生徒たちはがっくり。
「ミャアちゃん何とかしてよ 運が良いんでしょ」と友人に言われ、頭を悩ませるけれど……。

*しれっと話が始まっているが、この本の最初にある「パワードスーツ」の回から12年後に執筆された作品だと最後のコマの欄外にある年度表記から分かる。とにかくミャアちゃん達は、歳月の流れを始めとして、ありとあらゆる自然界の法則から完全に自由だ。

ななこSOS キメラ

(描き下し 2015年10月)

 とある高校の校庭で、男女の学生たちが楽しそうにしている。しかしそこへ突然、奇怪な巨大怪獣が空中に出現した。このキメラ(複数の異種生物が混ざった姿の生命体)は、美少女1名を誘拐して消え去る。
 同様の事件はここのところ多発しており、警察も捜査中なのだったが解決の糸口すらまだ見つかっていない。
 そこで高校の校長は、すーぱーがーるの、ななこに警護を依頼した。
 しかし警察から派遣されている刑事は、ななこたちが素人探偵に過ぎないとしてこれを快く思わない。
 ともあれ、生徒会長の男子学生が呼び出されて、ななこに協力するよう校長から命じられる。
 驚いた事に、ななこは超能力によって事件の核心をたちまち把握できた。それは……。

*『ななこSOS』も初登場からだいぶなる。これまでにも『産直あづまマガジン』では新作が発表されてきたが、読めるたびに懐かしく、そして歳を取らない登場人物たちの姿を見られるのがうれしい。
 SFマンガであると同時に、推理小説の要素もあるのが見事。後で登場する四谷がサルの手(?)などというオカルト的な物を持って矛盾まる出しなのは笑える。ななこの使っている携帯には呼び出し音として、どうやら吉田拓郎の『落陽』が使われているらしい(p.47)。台詞の一部から、作者がこの当時にアイドルまた歌手である篠崎愛を気に入っていた(?)事がうかがえる。

あとがき

(描き下し 2016年7月)

 こちらも近況報告なのだが、食事の事、TV視聴の事、ギター演奏の事、はては年金の事情まで語られている。「年金は出ない 貧乏で10年分くらいの未払いがあるからだ」という。

 日本年金機構はその公式サイトで、『必要な資格期間が25年から10年に短縮されます』という告知をしている(更新日:2017年8月1日)。いわく、
「これまでは、老齢年金を受け取るためには、保険料納付済期間(国民年金の保険料納付済期間や厚生年金保険、共済組合等の加入期間を含む)と国民年金の保険料免除期間などを合算した資格期間が原則として25年以上必要でした。
平成29年8月1日からは、資格期間が10年以上あれば老齢基礎年金・老齢厚生年金を受け取ることができるようになりました。」とのこと。
 作者が安心して創作に打ち込めるよう、ファンとして切に願っている。