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09 ときめきアリス

(はじめに)

Alice with a pounding heart

A

*(2006年6月26日追記:このページの最後に、ちくま秀版社版『定本 ときめきアリス』の記事を付加しました)

 B

 ”アリス”というのがヒロインの名前のようだが、これは”同じ名前を持つ別人が毎回登場する”のであって、全話を通じて活躍する一人の主人公が存在するわけではない。まずこうしたシリーズ設計がルイス・キャロル(Lewis Carroll)の「アリス」("Alice's adventures in Wonderland"および"Through the Looking-Glass, and What Alice Found There")とは異なる。また英児童文学の「アリス」は”少女が不思議な体験をする物語”なのだがこの「ときめきアリス」は”不思議な少女を体験する(男の)物語”とでも言うべき回が多い。ここに描かれているワンダー(不思議)なものはランド(国)ではなくてアリス(=娘)のほうなのだ。これはある意味、男の目を通した世界観としてものの本質をうがっているようにも思える。

C

 連載されていたのが青年誌であるためかセックスにからんだ話が多い。とはいえあまりにも現実離れした幻想が展開するので、読者は性的興奮をおぼえるより先に驚かされ、笑ってしまうことだろう。単行本としての「ときめきアリス」は最初、"Hideo Collection(双葉社)"の第7巻として堅表紙本で世に出ている。上のほうに示した画像にあるとおり、("Hideo Collection"では共通している仕掛けなのだが)フルカラーのカバーを外すや人物がこつぜんと消え、単色の背景だけになるという謎めいた装丁だ。背景の樹木などは、どことなく19世紀、キャロルによる「アリス」出版当時の印刷物みたいな色調で描かれているように僕には感ぜられるのだが、どうだろうか(なお、ここに描かれている背景はどうやら『鏡の国のアリス』の原著に収録されたジョン・テニエル(John Tenniel)による挿絵のパロディらしい。そこでは地平線まで全体が巨大なチェス盤のようになっている世界が見渡せるのだが、このチェスに絡めた要素というものは『ときめきアリス』には、無い)。
 で、この最初の単行本なのだが、各話の収録は発表順ではなく独自の並べ替えが行なわれており、サブタイトルに12ヶ月を割り当てるなどの工夫もなされている。担当者はこうした編集にさぞ知恵を絞ったろう。それは尊重したいのだが、ここでは作品が発表された順序に従って紹介してゆこうと思う。これは、そうした順に「アリス」たちを並べてみる事によって、もしかすると月日につれての作者の内面の移り変わりのようなものが浮かび上がってくるかも知れぬと考えたからで、他意は無い。



April アリスはおかしくて笑ってしまい

02

(スーパー・アクション 1984年5月号)

"Alice couldn't help laughing"

A schoolgirl sits down on a bench in a park, then a man seemed a schoolboy comes. They arranged to meet, but the girl ( Alice is the name of this girl ) says,
"I had forgotten why I am here."
What a vague girl she is ! Moreover, Alice suddenly transforms herself in his presence...

 公園のベンチに女学生が独り腰かけている。そこへやはり学生らしい少年がやってきた。二人はここで待ち合わせをしたのだが彼女(アリスというのがその名前である)は、「なんであたしここにいるのか忘れちゃってた」と言う。何とも捉えどころの無い娘ではある。おまけにアリスは突然、彼の目の前で変身し……。

*抱かれているうち感じてきて理性が薄れたのか、女が男の肩に”噛み付く”コマがある。現実においてこんな一瞬に出くわすと男は相手を、「本当はケダモノが化けているのでは」などとあり得ない疑いを懐くかも知れない。女という、男にとって不可知な生き物への不安。そのへんから幻想が沸いてくるのであろうか?



June アリスははにかみながら

03

(スーパー・アクション 1984年6月号)

"Alice is bashful"

A couple who looks ordinary, held ordinarily a wedding ceremony, went ordinarily to a honeymoon. But the next morning of their wedding night, bridegroom see his wife Alice who is still sleeping, and...

ごく普通に見える二人が、ごく普通に式を挙げ、ごく普通に新婚旅行へ出かけました。ただ1つ違っていたのは初夜の翌朝、まだ眠っている新妻の亜里素(アリス)を見てみたら……!

*結婚後、配偶者がそれまでとは別人のようになったと感じて驚く、という事があるかも知れない。結婚によって本当に相手が変わった場合もあろうし、結婚生活に入ってそれまでは見えなかった部分が見えてきたに過ぎない場合もあるのだろう。妙に現実と重なる部分に気づき笑わされてしまう。
 新婚旅行の行き先が国内というのは、1980年代前半ならけっこうまだ多かったかと思われる。



May アリスはすこし不安そうに

04

(スーパー・アクション 1984年7月号)

"Alice feels so uneasy"

An abnormal young man comes to a common(?) coffee shop. He masturbates in public and begs a waitress who asks him order,
"Please speak more !".
When he ejaculated, his semen dropped into a sugar pot, and speakes for some mutation or other...

 普通の喫茶店(?)に、頭のぶっ壊れたような青年がやって来た。注文を訪ねるウエイトレスに彼は「もっとしゃべってくれ!」と頼みつつ自慰を続けてついに射精。その精液は砂糖ポットの中に落ちたのだが、一体何の突然変異か、口をきいて動き出し……。

*いかれた客が現れるというのは珍しくもない日常茶飯事だからか(僕らはなんという社会に暮らしているのであろうか)ウエイトレスはじめ店の人々が平然と応対しているあたりは皮肉なものだ。劇中「フェアリー(妖精)」という言葉があり、”精”液が妖”精”に変身したという事なのかも知れないのだが、こまごました理屈付けは全部すっ飛ばして、自意識と女性の姿を手に入れた”アリス(?)”の侵略が展開してゆく。一種の不条理SFマンガと呼ぶべきかこれは!?



July アリスは波打ちぎわに腰かけて

05

(スーパー・アクション 1984年8月号)

"Alice sits down on the beach"

Summer ! The sea !! Girls in the heat !! Make love as much as you like !!!! .... A hero was told about such little-known hot spot from his friend Yamamoto, and went on a trip at the rut. Nevertheless they cannot find any young girls on their trip, and even worse there are only them in the uninhabited island where is their destination. A hero got burned up, runs after Yamamoto and crys,
"Give your butt".
Then he finds something piece of cloth to be gotten twisted at a branch...

 夏! 海!! 飢えたギャル!! やり放題!!! というすごい穴場を見つけたと友人の山本からきいた主人公はサカりまくって旅に出た。ところが道中、周囲には若い娘たちの姿なぞどこにも無く、到着した目的地のちっぽけな無人島には自分たち二人のほか誰も居ない。頭にきて「ケツ貸せー」と山本を追いかけると、木の枝に何やら布切れが絡めてあるのを発見して……。

*清く正しく美しい(?)日本昔話も、若い男たちの妄想にかかってはエロ物語になってしまうのであった。しかし考えてみると、そもそも日本の御伽(おとぎ)には美女の出てくるものがいろいろあるようで、ひょっとすると我々日本人は遠い祖先の時代からあまり変わっていないのだろうか?



September アリスはがまんできなくなって

06

(スーパー・アクション 1984年9月号)

"Alice is to be cannot endure"

Jiro Yamamoto, not popular manga artist, moves to an apartment house that he had a dream to live in. But when he saw in a room, there was a girl looked a resident. He was surprised and told it to a caretaker only to be taught,
"She is a poltergeist who haunts the room".
Alice, the poltergeist, is not horrible, cheerful and delightful on the contrary. Although various complicated problems occur since they live together...

 売れないマンガ家の山本次郎は、夢にまで見たマンション暮らしを始めるために引っ越してきた。しかし室内を見たら先住者らしい美少女がいるではないか? 驚いて管理人に告げたら「あれはこの部屋に憑(つ)いてるポルターガイストです」という返事。有巣(アリス)と名乗る彼女は全然怖くなく、むしろ陽気で楽しいくらいだったのだが、共同生活が始まってみるとややこしい問題があれこれ生じてきた……。

*どのような事情でいつからポルターガイスト(Poltergeist)になったのか等、アリスの身の上については一言の説明もなされないまま物語は展開してゆく。そうした設定をいちいち語らず自由な空想にゆだねるのも、読者が参加できるようにとゆとりを確保したサービスなのだろう。独り暮らしの若い読者に共感を呼ぶ幻想譚(げんそうたん)かも知れない。



August アリスはこれはおかしいと思って

07

スーパー・アクション 1984年10月号)

"Alice thinks it is improper"

Kobayashi lives alone at a dilapidated flat. He is sleeping and disappointed,
"I wish for appearance of normal woman at least in my dream".
Then, a beautiful girl Alice makes an appearance.
"I've lived for having a wet dream by refraining from masturbation."
Kobayashi trys to make love with her with emotion, but she says,
"Let's go to Harajyuku (in Tokyo) and eat crepes !"
Kobayashi cannot imagine for satisfy Alice because he is "a mere animated film enthusiast". Alice leaves his dream and Kobayashi runs after Alice into other's dreams...

 小林くんはおんぼろアパートに独り住まい。ただいま睡眠中なのだが「夢なんだから女くらいまともなの出てほしいな」と失望している。そこへアリスという美少女が現れた。「ここんとこかくの我慢して夢精だけを楽しみに生きてきた」彼は感激してアリスを抱こうとするが「(東京の)原宿行ってクレープ食べよ!」と言われる。しかし「一介のアニメおたく」であるため、彼女を満足させられるような空想ができない。夢から逃げ出してしまったアリスを追って、他人たちの夢に入り込んでゆく小林くんだが。

*読み終えると気づくのだけれど、定石(じょうせき)を逆にしたような手法が見られるようだ。



January アリスはちょっとため息をついて

08

(スーパー・アクション 1984年11月号)

"Alice gives a sigh"

A girl seemed on go home from school, says her friend good-bye and gets on the train. The while she thinks
"I feel like going anywhere",
the train arrives at a station, the girl gets off in a hurry. However it is a mysterious place that she can find nothing. Had she gotten off at the wrong station ? Fortunately the girl found a ticket gate, and walks to that way...

 下校し帰宅する途中だろうか、少女は友達と別れて電車に乗った。「どっか行きたいな」と考えていたら駅に着き、慌てて下車。が、そこはどこまでも何ひとつ見当たらないような場所だった。降りる駅を間違えたのだろうか? 幸い改札口はあったので、そちらへ歩いてゆくと……。

*今回は”アリス”が主人公となり単独で出演している。電車に乗っている時、同じような毎日の繰り返しに退屈して「どこかへ行きたい」と考えたりするのは、青春の日々で普遍的にある事なのであろうか。
 ぼくらは(とりわけ若い日々にはなおさら)何らかの願い事や目標の実現をめざして生きているものだろうけれど、それら”目的地”というものは、たどり着き成就した時点で、意味と価値を失ってしまうのかも知れない。それでも探すなら電車はやってくるのだろう、次の目的地へ行く為に。



November アリスはあたりを見まわして

09

(スーパー・アクション 1984年12月号)

"Alice looks around"

A schoolgirl comes a zoo. There are many lovely animals. But when she goes to a section of "penguin", there is something suspicious-looking living(?) things. What's going on ? She comes across a man who is in charge of breeding, and speaks to him...

 ひとりの女学生が動物園へやってきた。出迎えてくれる可愛い動物たち。が、「ペンギン」の前に行ってみると、何か訳の分からない生物(?)がいるだけ。いったいどういう事なのか? 飼育係のおじさんに出会い、声をかけてみると……。

*笑えるような、不安になるような、よく分からない話。今回も”アリス”が主人公の幻想となっている。当時コアラが人気者だったらしく、その流行に合致していないこの動物園には劣等感と苛立ちが漂っているようだ。一種の客商売であるため、世間一般への「うけ」は気にせざるを得ないのだろう。
 もしぼくらが独創的な何かをできるようになった時、そこに待っているのは達成した喜びだろうか、それとも世間には受けないゆえの孤独だろうか?



February アリスは何かしてやりたくて

10

(スーパー・アクション 1985年1月号)

"Alice wants to do anything for"

Hoshikawa lives alone at an apartment house. A caretaker comes with a new tenant for introduce her to him. The new neighbor Alice Umineko is a young beautiful woman, however she is newly-married to his regret.
"I don't know living custom of this place still"
Alice says to him that she is at a loss, and asks,
"Would you please teach me everything ?"
Hoshikawa expects with his secret desire, so he accepts an invitation and goes to her room, but...

 独りでアパート住まいをしている星川君のところへ、管理人が新しいお隣さんを紹介しに連れて来た。その人”海猫亜里巣(うみねこありす)”は若い美女だったが、残念ながら新婚さんである。「まだこちらの生活習慣が全然分からなくて」と困っている彼女に「よろしかったら色々教えてくださる?」と頼まれ、もしやこの先ウレシイ展開になるかもという下心を懐く星川君。だが、彼女の部屋へ招かれてみたら……。

*再び、サカリのついたケダモノ君の登場で、青年誌らしいギャグ漫画になっている。80年代前半のTVアニメをもとにしたパロディかと思われる部分が幾つか見られるようだ。”アリス”の夫がどんなキャラクターなのか全く明らかにされていない点など、ムダを大胆に切り捨てて制御された構成と言えるのではあるまいか。



December アリスは騎士をさがそうとして

11

(スーパー・アクション 1985年2月号)

"Alice trys to seek for a knight"

Alice Kazama is an inconspicuous middle-class high school girl. She transforms herself at night into Kyoko Yamamoto the psychic-gal of justice who defends peace of the world. She fights against Mr.Kondoh the evil psychic, but "an audience rating" is hopeless. So they decide to change a place into a busy streets for confrontation. Though they see at there...

 風間アリスは目立たない中流の女子高生だが、夜になると、世界の平和を守る正義のサイキック・ギャル山本今日子に変身する。彼女は悪のサイキッカー近藤さんと戦っているのだが、「視聴率」はまるっきりなので、繁華街で対決すべく場所を移すことにした。しかしそこでは……。

*悪人が存在しなければ正義の味方も出番は無いだろう。その相互依存(?)が過ぎて道を踏み外したか、ここで戦っている人たちは正義も悪も、一体何が目的で行動しているのやら明確でない。双方とも”大衆という観客にウケるかどうか”を問題にするという珍妙な方向へ暴走してしまっている。
 「正義の味方」を「芸人」扱いにした冗談ではあるとしても、創作(とりわけ勧善懲悪のそれ)についての考察が根底にあるのではないか。
 そして、ウディ・アレン(Woody Allen)のとある映画をパロディにしたような人物が登場する。



October アリスはすっかりまごついて

12

(スーパー・アクション 1985年3月号)

"Alice is thrown into confusion"

Alice and Nishida are a couple. They are students yet, but they are on friendly terms with each other for have sexual relations. After making love Nishida grills,
"Are you such a woman who has sleep with anybody ? Rumor has it that you are on intimate terms with all men of our school, why ! Why I am a man of 135th !?"
"Since... I'm hungry..."
Alice answers,
"Let's leave that and please show me your body",
she checks the inside of Nishida's thigh, and there is a strange living thing...

 ありすと西田君は学生どうしのカップルだが、もう行く所までいった仲である。コトが終わって、「君はそーゆー誰とでも寝る女なのか? 学校中の男と出来てるってうわさもある なぜなんだ! なぜオレは135人目なんだ!?」と詰問すると、「だって・・・・・・お腹が空いて・・・・・・」という返事。「それよりちょっとからだ見せてね」と、ありすが西田君の内股を調べるや、そこには奇妙な生物がいて・・・・・・。

*世の中には現実に、とんでもないゲテモノ食いをする人がいるらしい。が、本人は好きで(或いは信念があって)そういうものを食べるのだから、案外と幸福なのかも。むしろ大変なのはそういう人物を恋人にした、普通の趣味嗜好の人たちのほうだと言えようか。ともあれ、少数派は何事につけても、苦労や迫害や排斥を経験するのが世の常。何となく悲しみを含んだ幻想ギャグに読めるようだ。



March アリスはしばらくの間黙りこんで

13

(スーパー・アクション 1985年4月号)

"Alice falls into silence for a while"

Sakurada drinks with his superior and accepts an invitation. At superior's house, Sakurada says,
"Your wife is young and pretty"
"Then I'll lend her to you tonight"
his superior answers. Sakurada laughs but finds no words when he looks his next. There is a huge living thing that is impossible to be in a room, and superior introduce it as a friend of his wife. Moreover, in Sakurada's presence the wife suddenly...

 桜田くんは酒に付き合って上司の自宅へ招かれる。「若くてかわいい奥さんですね」と言ったら「じゃ 今晩貸すよ」という答えが返ってきた。笑っていた桜田くんであるが、ふと自分の隣をみて絶句する。そこには、座敷にいるはずもないような巨大生物がおり、しかも「女房の友だち」だと紹介されるのだった。そのうえ、奥さんは彼の眼前で突然・・・・・・。

*このシリーズでは、実在する生物の特徴を元ネタにして人間にあてはめたような物語がいくつかあるようだ(作者の博識なことがうかがえる)。とはいえここでギャグにされているのは”アリス”ではなくて、妻という得体の知れない相棒に振り回されて人生がおかしくなっていってしまう男どもの姿である。どちらかと言えば所帯持ちが読んで苦笑するマンガになっているであろうか。



Prologue アリスは鏡を通りぬけて

15

(描き下ろし 1985年4月)

"Alice passes through a mirror"

Alice peeps into a mirror. But it is something likes an window rather than a mirror. She watches 3 girls are chatting -- it looks an everyday scene -- in there. Nevertheless, Alice says with her heart beating fast,
"Oh, what a interesting land !!"

 アリスは鏡をのぞいている。しかしそれは鏡というより窓のような何かで、中には、3人の女学生が路上で談笑しているのがーーきわめて平凡な日常といえそうな情景がーー見える。ところがアリスは驚き胸をときめかせて言う「まァ なんて世界なのかしら!!」と。

*副題にPrologueとあるように、単行本ではこの回が冒頭にくる。物語というよりは説明に近い内容で、アリスがぼくらとは違うどこか不思議な世界の住人であることが示されている。
 ルイス・キャロル(Lewis Carroll)のアリスは鏡をのぞきこんでいるうちにその向こう側の世界へと旅することになるのだが、吾妻版アリスはその”逆”なのだーーいわば鏡に映した像のように。
 かくてこのプロローグは最終話と対をなし、各話がてんでんばらばらと見えた吾妻版アリスたちの絵双紙を1本の糸で綴(つづ)り合せ、物語全体を完成させている。



Epilogue アリスはたいそう不思議に思って

14

(スーパー・アクション 1985年5月号)

"Alice wonders very much"

Alice is a detective. A one-eyed big cat sits at his desk and uses a word processor, moreover takes charge of her office and transacts business. Only weird commissions to be given her, for all that Alice looks bored and says,
"Only nonsensial happenings as usual".
Then a client calls on her...

 アリスは探偵である。彼女の事務所では独眼の大きな猫が机に向かいワープロを使っていて、留守番と事務をこなしている。入ってきた仕事は奇怪な内容のものばかりなのだが、アリスはそれらを「あい変わらず愚にもつかない事件ばっかだな」と退屈している様子。そこへ依頼者がやってきて……。

*ぼくら読者から見ると異様な状況なのに、どういうわけか主人公は平然としているので「???」と思わされる。が、読み進むとやがてその種明かしがなされ、「なるほど!」と納得させられる仕掛けが面白い。主人公の職業が探偵なのは、こうした謎解きを作者からゆだねられているゆえであろうか。
 ルイス・キャロル(Lewis Carroll)『不思議の国のアリス』では最後の最後で、”たいくつな現実”について語られるくだりがあるが、この最終回はそれのパロディだろうかと思わしめる部分があるようだ。またエピソードには同作品を連想させる要素が見られる。プロローグに「鏡の国」(Through the Looking-Glass, and What Alice Found There)を用い、エピローグに「不思議の国」(Alice in Wonderland)をあてはめた逆さまのパロディという構造は興味深い。
 さて、それにしてもこの一連の作品で、ときめいていたのはアリスたちのほうなのだろうか。それとも、男の側から”女という不思議”を見てきた、ぼくら読者のほうなのだろうか?



定本ときめきアリス

00cover

 "Teihon Tokimeki Alice ( The standard edition of Tokimeki Alice )"

The author unbosoms himself at an afterword of great interest,
"I had felt a limit in a maniac Sci-Fi line that I had been writing, at this point of time".

こちらはチクマ秀版社から復刊されたもの(2006年6月25日初版第1刷 A5版 定価 本体1,800円(税別))。内容は以下のとおり。
・第1章:アリスはおかしくて笑ってしまい
・第2章:アリスははにかみながら
・第3章:アリスはすこし不安そうに
・第4章:アリスは波打ちぎわに腰かけて
・第5章:アリスはがまんできなくなって
・第6章:アリスはこれはおかしいと思って
・第7章:アリスはちょっとため息をついて
・第8章:アリスはあたりを見まわして
・第9章:アリスは何かしてやりたくて
・第10章:アリスは騎士をさがそうとして
・第11章:アリスはすっかりまごついて
・第12章:アリスはしばらくの間黙りこんで
・第13章:アリスは鏡を通りぬけて
・第14章:アリスはたいそう不思議に思って
・ギャラリー(フルカラーのイラストレーション17葉、鉛筆がきまたはペン入れ状態のイラストレーション7葉、計24葉を収録)
・あとがき(2ページのマンガ)

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 紙質と印刷は非常に良く、カラーページ(第9章:アリスは何かしてやりたくて)では切り貼りによる原稿の紙の段差まで識別できる。2色印刷用に描かれた原稿をフルカラー印刷で再現したらしい部分(第2章:アリスははにかみながら)では、2色用の原稿がどのようなものかが良く分かる。鉛筆画のところでは、下描きがどのようになされ、ペン入れが行なわれているのかを観察できるようになっている。

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 あとがきには、
「これらを描いてた頃は それまでのマニアックなSF路線に限界を感じていた」
など、内面が披瀝されており興味深い。




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