はじめに
このカテゴリでは、とにかく「キャラが立っている」(登場人物が生き生きしていて個性がはっきりしている)印象の作品集2冊、『シッコモーロー博士』および『やけくそ黙示録』を扱おうと思う。のちに"吾妻マンガ3大異常キャラ"として人気者になった(!?)らしい「ナハハ」・「三蔵」・「不気味」たちが脇役から昇格してついに主役をつとめるに至った諸作品は、ここに収録されている。
これら2冊を合本した(ただし『大冒険児』を欠く)サン・ワイド・コミックス版『やけくそ黙示録』(1987年)では収録順序がこの逆になっているのだが、単行本の編集としてはそれで良かったにしても、紹介するならやはり、作品が発表された時系列にできるだけ従った方が分かりやすく、作風の変遷などで発見もあるのではと考え、この順で書かせていただくことにした。
さて、これらの本に収録されている作品群は、短期間の連載だった(最も話数が多い『とつぜんDr.』で全21話)ものと読み切りで、長いシリーズは無い。結果、主人公をありとあらゆる角度から描写するといった事は行なわれていないのだけれど、シリーズが長く続くうちにどうしても発生し易いマンネリズムや読者の側の「慣れ」といったデメリットからも自由であったろうと思われる。回が少ないにもかかわらず主人公たちの印象が妙に強いのは、それが幸いしたところもあるのだろうか?
さらに特筆できるだろう点として、ここで登場するキャラクターたちはほぼいずれも、特異な生い立ちを持っている。上述した「ナハハ」や「三蔵」はもちろんのこと、『やけくそ黙示録』のヒロインは『やけくそ天使』シリーズ主役の生まれ変わり(?)だし、『とつぜんDr.』の「不気味」はもともとは作者自画像のひとつだった(?)みたいなのだ。
かように、たいそうクセの強い連中が集まった中へさらに加えて、珍妙な主人公たちが集まってきている。エッチ路線を少女マンガ雑誌で(!)やってのけた『真絵知くん』、正義の超人のはずなのに迷惑な事件ばかり引き起こしている『スーパーサクラン』、吾妻マンガには珍しく独特なデザインのコスチュームを与えられている『怪盗紅オヨヨ』、やはり同様に珍しい"原作つき"だった『ママ』、のちに吾妻マンガで時々描かれるようになる"セールスマン"ものの原型かと思える『セールスウーマン』……。作者の若いエネルギーや奔放な空想力がいかんなく発揮された記録がここには保存されている。ジュヴナイル(juvenile = 児童向き図書)的であるとしてもそのぶん、非常にとっつきやすい水準に調整されたSF要素も、吾妻ひでおの個性の発露としてはっきり出ており、楽しい。
長いシリーズほどの知名度はないかも知れないが、すぐれた中・短編集となっている書籍が『シッコモーロー博士』と『やけくそ黙示録』ではないかと思う。
(付記:単行本を入手できたのでその画像を追加しておきましょう。下は、カバーを広げた状態。これが、『シッコモーロー博士』の収録単行本として最初のものです。
いやはや、えっれー色使いのカバーですね~。しかしこの見かけにたがわず、内容も実に……。それでは、収録作品のあらすじをどうぞ。)